海外だより

年度代表馬

今週末のイギリスでは、アスコット競馬場を舞台に今年1年のカテゴリー毎のチャンピオン決定戦が豪華絢爛に居並ぶ「ブリティッシュ・チャンピオンズ・デイ」が行われます。当日の第1レースに組まれている3200mの長丁場で争われるブリティッシュ・ロングディスタンスCは、G2と一枚落ちの感じでも中味は文句なしの王者同士のガチンコ対決!昨年は英仏愛の超長距離G1を総ナメにしたスーパーチャンプ・キプロスが故障休養から復活して、目下2連勝中と波に乗る一昨年の全欧マラソン王トゥルーシャンとの激突が実現します。第2レースからはG1のオンパレードで、スプリントのブリティッシュ・チャンピオンズ・スプリントS、牝馬限定2400m戦のブリティッシュ・フィリーズ&メアズS、マイルのクイーンエリザベス2世Sと次々にスーパースターが登場し、オオトリを飾って距離2000mの英チャンピオンSは〝キング・オブ・キングス〟の座を争います。一口に言えば、年度代表馬決定の鍵を握る大一番が幕を切って落とします。

ヨーロッパの年度代表馬は国別にも存在しますが、有名なのは日頃から交流が盛んで一つの競馬圏を形づくる英愛仏3国の枠組みから選出する〝カルティエ賞〟です。制定されて30年ほどと比較的新しい仕組みですが、今では世界最高レベルの〝名馬の勲章〟として広く親しまれています。過去、どんな馬が年度代表馬に叙されてきたかというと、ご想像通り凱旋門賞馬が圧倒的な強みを誇っています。これまで延べ32頭がカルティエ賞年度代表馬に輝きましたが、凱旋門賞馬は女帝エネイブルの2度を含めて延べ10頭と全体の3分の1近くを占めています。日本ばかりではなくヨーロッパの人々にとっても〝特別なレース〟なのですね。今年はエースインパクトが凱旋門賞では滅多に見られない大外強襲から鮮やかに突き抜けて見せました。傷つかずで無敗の戴冠は歴代覇者に遜色なくカルティエ賞の重みに十分に値する馬だと思います。少し気になるのはコロナ禍がもたらした影響です。レース価値の根幹の一端を担うレーシングカレンダーの普遍性が揺れ動き、人馬の移動が困難を極めレベル低下が避けられず、レース名は同じでも中身の同一性に疑問が生まれました。20年以降の凱旋門賞はレースレーティングを著しく劣化させ、年度代表馬も送り出せないままです。今年はエースインパクトが世界一イクイノックスの129ポンドに迫る128ポンド評価の走りを見せましたが、全体としてコロナ以前のレベルを回復するには至っていません。こうなると、エースインパクトは「今年に限り強かった」というカッコ付きの顕彰馬になるのでしょうか?

これを追うのが前半戦を盛り上げたパディントンでしょうか?エリザベス女王のメッセージ映像の中で一緒にアフタヌーンティーを楽しんだ国民的英雄のクマのキャラクターがモデルですが、馬の方もなかなかの人気者で、愛2000ギニーからロイヤルアスコットのセントジェームズパレスSと世代No.1マイルに君臨し、次いで中距離のエクリプスSで古馬も倒し欧州王への野望も夢ではなくなりました。エイダン・オブライエン調教師が、自身が育てた往年のジャイアンツコーズウェイやロックオブジブラルタル、一昨年の年度代表馬セントマークスバシリカなどの〝2階級制覇の名馬〟に劣らない評価をジャッジしています。パディントンは土曜のクイーンエリザベス2世Sで今季5勝目のG1制圧を果たすことが受賞の条件になるでしょうが、〝お茶友達〟の故女王に嬉しい報告ができると良いのですが。

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