海外だより

年度代表馬三国志

凱旋門賞のエースインパクトは強かったですね。世界中から実力伯仲の強豪馬が参集して、その頂上を目指す厳しい戦いですから、レースは2400mの随所随所で無駄なく走り、勝負どころの厳しいポジション争いに競り勝った馬が、栄光のゴールに一番先に飛び込むことがほとんどです。その最大の勝負どころは4コーナー、ここで大外を回って差し切った馬は1986年のダンシングブレーヴが特筆されますが、滅多に起きない〝事件〟として記憶されています。ダンシングブレーヴの場合は〝歴代最強〟と伝えられるメンバーでの〝大事件〟でしたが、今年のエースインパクトも〝大事件勃発〟を思わせる強烈さが印象的でした。鞍上クリスチャン・デムーロ騎手は、何しろスタート直後から一貫して馬群の一番外を回り、距離損を覚悟して立ち回りの自由度を大事にした乗り方に徹しました。仏ダービーでもそうでした。これで無敗を続けているのだから戦法をいじる必要はないと考えたのでしょう。これで4コーナーも大外を回って、いつものように良い脚を長く持続させて差し切ってしまうのですから、実力が一枚どころか二枚は上なのでしょう。上がり3ハロンは33秒01だったそうです。タフな馬場を2400m走って、この瞬発力は並ではありません。
カルティエ賞年度代表馬(欧州チャンピオン)はこの馬で決まりでしょうか?

凱旋門賞が終わると北半球の競馬は、一足飛びにフィナーレに向かって加速します。代表的なのはヨーロッパ、アメリカの二大競馬圏ですが日本なども加えて、今年の最強馬の勲章=年度代表馬の座を巡る戦いが最終ラウンドを迎えます。カテゴリーで言えば、2000m級の中距離、2400m級の長距離、大枠でチャンピオン・ディスタンスと括られる距離で争われることがほとんどなのですが、その主戦場となる残されたトップクラスG1は数レースに絞られてきました。ヨーロッパは今月中旬にアスコット2000mで行われるチャンピオンS、アメリカはダートの頂点ブリーダーズカップクラシックとヨーロッパ勢が大挙出走する芝のブリーダーズカップターフの二本立てチャンピオンシップが11月初旬に開催されます。エースインパクトを追撃するのは、ご存じディープインパクト・ラストクロップの超大物オーギュストロダンです。イギリスとアイルランドの両ダービーをまとめて制覇したと思えば、キングジョージは100馬身余の世紀の大惨敗、捉えどころのない馬ですが、ロンシャン以上にタフトされるエプソムの馬場で上がり33秒台前半で差し切った瞬発力は、エースを凌ぐかも。おそらくブリーダーズカップターフがラストランとなるでしょうが、最後の大仕事を成し遂げて欲しいものです。

そして日本は、春シーズンのドバイシーマクラシックと宝塚記念で大きなアドバンテージを築き上げた〝レーティング世界一〟イクイノックスが今月下旬の天皇賞(秋)から〝世界の年度代表馬〟を目指して羽ばたきます。シーマクラシックでの強さは格別でした。4馬身ちぎった2着のウェストオーバーは、その後もキングジョージ6世&クイーンエリザベスS、凱旋門賞とヨーロッパを代表する頂上レースでいずれも2着している実力馬です。序列的にはエースインパクトに次ぐ存在です。さらに凱旋門賞で人気を集めていたフクムをドバイでは4着に退けています。イクイノックスの実力の確かさが伝わるレースでした。〝レーティング世界一〟は伊達じゃありません。世界にその強さを広めるような競馬を見せて欲しいものです。

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