海外だより

多士済々の凱旋門賞

最後の最後に、勢いのある若き上がり馬2頭が追加登録料12万ユーロ≒1900万円を支払って参戦、活気のある面白い凱旋門賞になりそうです。1頭はハーツクライ産駒の英セントレジャー馬コンティニュアス、もう1頭が独ダービー馬ファンタスティックムーンです。コンティニュアスのエイダン・オブライエン調教師は、ディープインパクト産駒の英愛ダブルダービー馬オーギュストロダンを自重させて、この1頭に絞り込んで主戦ライアン・ムーアを鞍上に配してきました。世界の頂点を極める名門厩舎の威信を賭けてのチャレンジです。目下レース毎にハーツクライらしい成長力を爆発させて堂々たる内容で連勝中、この勢いをコンティニュアス(連続)させてくれるでしょう。一方のファンタスティックムーンは、〝ロンシャン名物〟の道悪を危惧してBCターフからジャパンCという路線を想定していたのですが、好天続きのパリのお天気に急遽参戦に踏み切りました。ドイツ血統馬は最近でもトルカータータッソやヴァルトガイストがドロンコ馬場を突き抜けていますが、10年少し前には吉田照哉さんが直前に購買したデインドリームが、今回と同じように追加登録料を払ってレコード勝ちしています。ドイツ馬=道悪馬場の先入観は捨てた方が良いのでしょう。

こうした〝緊急参戦〟組や日本馬スルーセブンシーズなどを含めて多士済々の伏兵陣が揃いましたが、今年の主役は地元馬エースインパクトが務めます。目下5戦5勝と負け知らずの進撃を続けています。コンティニュアスを着外に沈めた仏ダービーは、後方から息の長い良い脚を駆使して直線大外から突き抜ける圧勝でした。2100mの世界レコードというオマケ付き。2400mの距離、また古馬との対戦は未経験の領域ですが、まったく底を見せない未知の魅力がそれを上回りそうです。今年で第102回目を迎える凱旋門賞ですが、この世界最高峰レースを無敗のまま制覇した馬はこれまで7頭います。そのうち生涯無敗を貫き通したのは、戦後間もない1946年のカラカラ、世紀末95年のラムタラ、今世紀2013年のザルカヴァ、そしてこの名馬中の名馬群像にあっても、突き抜けているのはリボーの存在です。彼以外の3頭は凱旋門賞戴冠を最後に引退していますが、リボーは55年に凱旋門賞制覇した翌年も現役生活を続け、56年にも凱旋門賞を連覇して通算16戦16勝、ケタ違いの蹄跡を歴史に刻み込んでいます。エースインパクトが、果たしてこれら名馬たちの仲間入りするのか?3年前のソットサスに続いて、ジャン-クロード・ルジェ調教師とクリスチャン・デムーロ騎手のコンビによる戴冠なるのか?歴史的名馬の誕生を目撃できたら幸せですね。

最後になりますが、スルーセブンシーズの頑張りにも期待しています。父ドリームジャーニーは日本馬で凱旋門賞の頂きにもっとも近くまで攻め上ったオルフェーヴルの全兄。兄弟はステイゴールドの血を享けて、小気味良いピッチ走法で中山や阪神内回りなどトリッキーなコースを舞台に、兄弟で併せて有馬記念3勝、宝塚記念2勝と我が庭のように自由奔放に走りました。凱旋門賞も実力伯仲の超一流馬同士の争いだけに、勝負どころの4コーナーでは非常にタイトなポジションの争奪戦が毎回繰り広げられます。奥の深い底力に加えて、小足が使える器用さは大きな武器になります。この点にかけては、ステイゴールド系に一日の長があるはずです。今春の宝塚記念で、スルーセブンシーズは後方から追い上げた4コーナーで前が壁になり、急ブレーキ寸前の不利に直面しながら横へ横へと器用に瞬間移動して再スパート、レーティング世界一のイクイノックスにクビ差まで迫りました。本物の力を付けているのは歴然です。世界をアッと驚かせるジャイアントキリング(大物喰い)を成し遂げてくれないものでしょうか。

×