海外だより

セントレジャーは〝日英対決〟!

今週はドンカスター競馬場で、イギリスのクラシック最終戦「セントレジャー」が開催され、日本生まれのハーツクライ産駒コンティニュアスが有力馬の一角にピックアップされています。英愛ダービーをダブル制覇し、先週の愛チャンピオンSでは古馬を打ち負かしてチャンピオンロードを歩む、ディープインパクト産駒オーギュストロダンは日本で種付けしてアイルランドで生まれた、いわゆる〝持ち込み馬〟でしたが、コンテニュアスは純然たる〝日本産馬〟です。ともにクールモアの所属で、これも先週通算4000勝の大記録を達成した巨匠エイダン・オブライエン調教師の管理馬です。ディープインパクト血統には2000ギニー馬サクソンウォリアーなど経験も造詣も深い厩舎ですが、ハーツクライはほぼ初体験。しかし厩舎のエースジョッキーであるライアン・ムーア騎手は毎年のように短期免許で来日しており、ハーツクライに関してはすっかり手の内に入れており、オブライエン師も「ハーツのことはライアンに任せている」と全幅の信頼を寄せているようです。

「セントレジャー」は1776年創設で〝世界最古のクラシック〟と伝統と品格を誇る近代競馬の基幹レースです。ダービーが〝スピードとスタミナ双方の完成度における早熟性〟を重要視されたのに対して、その〝成長性〟を測る役目を担い、勝ち馬は〝至高の名馬〟と尊崇を集めた時代が長く続きました。しかしスピードの絶対的重要性が確立されると、具体的には1970年のニジンスキーによる〝最後の三冠達成〟を前後して、過去の栄光が徐々に色褪せることになります。イギリスのジョン・ゴスデン調教師や前出オブライエン調教師は〝血統の多様性維持・拡大〟の立場から、3000m前後から4000mを走り抜くマラソンレースの必要性を強調していますが、まだ昔のような活況を取り戻せていない現状です。今年の「セントレジャー」も、出走馬9頭の内訳を見ると、オブライエン厩舎4頭・ゴスデン厩舎3頭と大半を占めています。

その両巨頭の有力馬に割って入ろうと虎視眈々なのがデザートヒーローというシーザスターズ産駒です。エリザベス女王の信頼が最も深かったウィリアム・ハガス調教師が管理、王位とともに競馬資産も継いだチャールズ3世国王とカラミ王妃が新たにオーナーを引き受けました。この馬は大変な馬主孝行で、新国王のロイヤルアスコット・デビューを祝賀するように特別ハンデ戦を勝利すると、次走のG3ゴードンSも連勝して重賞初勝利をプレゼントしています。勢いに乗ってのクラシック・セントレジャー挑戦です。国王所有馬のセントレジャー制覇は、46年前の1977年にエリザベス女王の牝馬ダンファームライン、皇太子時代のエドワード7世が1896年に歴史的名馬パーシモン、その全弟の三冠馬ダイヤモンドジュビリーで1900年に勝っています。国王の馬がクラシックを勝つと競馬が盛り上がると言われているようです。エリザベス女王も天国で大喜びされるでしょうね。でもサクソンウォリアーの2000ギニー、オーギュストロダンのダービーと併せてコンティニュアスがセントレジャーをもぎ取れば、サンデーサイレンス系のサイアーラインで競馬の原点イギリスのクラシック三冠を制することになります。前走で強敵をなぎ倒したグッドウッドと1周距離が3000m、直線1000mの大箱で、平坦コースというロケーションもよく似たドンカスター競馬場なら、成長力自慢のハーツクライの血が雄叫びを上げる望みも十分にありそうです。

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