海外だより

凱旋門賞の主役が登場!

今週火曜のフランス・ドーヴィル競馬場は、近い将来のG1昇格が噂される3歳実力馬の秋への跳躍台として知られる距離2000mのG2ギヨームドルナール賞が行われました。最近だけでも、15年のニューベイ(父ドバウィ)が仏ダービーからここを連勝すると凱旋門賞で3着に食い下がっています。翌16年の仏ダービー馬アルマンゾル(父ウートンバセット)は、ここを通過点に愛チャンピオンS、英チャンピオンSの中距離G1で強豪古馬をなぎ倒して王座に君臨しています。次は距離を延ばして2400m路線の頂点・凱旋門賞の制圧を誰もが期待したのですが、厩舎を襲った感染症の影響で体調が整わず、そのまま引退する不運に見舞われました。しかし名匠ジャン-クロード・ルジェ調教師は、襲来した不幸を辛抱強く克服し、コロナ禍の20年にはソットサス(父シユーニ)が日本馬ディアドラも出走した凱旋門賞で3連覇に挑んだエネイブルなどを破って頂点に上り詰めました。

ジャン-クロード・ルジェ厩舎は、フランス南西部のスペイン国境に隣接したピレネー山麓のポーに調教場を構えています。辺境の地と言っても良いのですが、豊かな自然に恵まれ、サラブレッドに欠かせない草と水の素晴らしさは飛び切りです。アイルランドの名門エイダン・オブライエン厩舎が、やはり片田舎で水が良いバリードイルに調教場を構え、そこから世界を飛び回っているのと似ています。ルジェ軍団は、ここをベースに200ヵ所以上もあるフランス各地の競馬場から、馬の適性に合致するレースを慎重に選んで送り出します。日本にスカウトされたアヴニールセルタンやラクレソニエールはともに仏1000ギニー、仏オークスの二冠を制した名牝ですが、そのキャリに馴染みのない競馬場が混じっているのは、そうした方針によるものですね。日本のように美浦と栗東に集約されて画一的な環境と設備でトレーニングされるのも、ギャンブル面の公平性という点では優れたシステムなのですが、スポーツとしての競馬の視点から見れば、調教師や馬主さんの思想や個性の多彩さに物足りなさも感じます。

ちょっと脱線気味になりましたが、ギヨームドルナール賞に話を戻します。ルジェ師の今年の期待馬は、仏ダービーを4戦4勝と無傷で通過したエースインパクト(父クラックスマン)が絶対的なエースでしょう。ダービーは後方から直線500mで素晴らしい脚を持続して繰り出し、他馬を圧倒しています。2着ビッグロックはマイルの転じて先日のG1ジャックルマロワ賞で古馬を相手に2着に食い込みました。3着マルハバヤサナフィは仏2000ギニー馬、4着フィードザフレームは次走でG1パリ大賞を制しています。弱い相手ではありません。良い脚を長く使えるステイヤー資質は父譲りでしょう。父クラックスマンは怪物フランケルの初年度産駒で素晴らしいポテンシャルの持ち主でしたが、所属したジョン・ゴスデン厩舎の同期には凱旋門賞2勝・キングジョージ3勝と2400mの女帝エネイブル、グッドウッドC4勝・アスコットゴールドC3勝のマラソンG1の鬼ストラディヴァリウスがおり、しかも全馬の鞍上をランフランコ・デットーリが勤めており、クラックスマンに凱旋門賞の選択肢は残されていませんでした。それでもエネイブルもストラディヴァリウスも選ばなかった中距離路線に向かい、2000mの頂上にそびえる英チャンピオンSを連覇したのはさすがです。2400mにも輝かしい実績を残しており、チャンスがあれば、この分野でも王座を争う1頭だったのは間違いないでしょう。その万能の血を受け継いだエースインパクトは、ギヨームドルナール賞でも自分のレースに徹して、後方から良い脚を長く使って4分の3馬身という着差以上にポテンシャルの違いを見せつける威風堂々とゴールを一番に通過しています。ブックメーカーの凱旋門賞オッズは、5倍の1番人気に推されています。本番まで後1か月半、これから強力なライバルや油断ならない伏兵が続々と名乗りを上げるでしょうが、今年の凱旋門はこの馬を中心に回っていくのは確実でしょうね。

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