海外だより

跳ぶ走る二刀流がターフに出現!

日本時間10日に行われたエンゼルス対ジャイアンツで先発投手・2番打者として出場した大谷翔平選手は、「2桁勝利」に到達し、既に達成している「2桁本塁打」と併せて、球聖ベーブ・ルースも成し得なかった〝二刀流の金字塔〟を2年連続で樹立しました。大谷選手の出現以来、「二刀流」の二つ名が様々な分野で使われるようになり、ちょっとした流行語として定着してきました。競馬の世界でも例外ではなく、障害王オジュウチョウサンが平地のレースに挑戦すれば「二刀流」とファンのテンションが上がり、ダート戦を出世の階段にG1スプリンターズS連覇を果たしたレッドファルクスが話題を呼びました。もう流行語というより、社会現象と呼びたくなる〝大谷効果〟の浸透ぶりには驚かされるばかりです。

世界は広いもので、変わり種の二刀流も続々と出現しています。先日のアイルランド・ネース競馬場でG3バリーローンSを勝ったヴォーバンという馬は、障害レースでG1を3勝もしている強豪ジャンパーです。それが前走はハイレベルのライバルが集まるロイヤルアスコットの平地ハンデ戦を圧勝して、返す刀で重賞制覇を成し遂げるのですから、これはもう二刀流も本物です。オジュウチョウサンの場合は、中山大障害3勝、中山グランドジャンプに至っては5連覇を含む6勝と破天荒な飛越を続け、G1以外では限界を超える斤量を課せられるために走らせられない事情がありました。チャンピオンハードラーに付き物の平地回りの側面もあったようです。しかしヴォーバンの場合は、冬場の障害シーズンにハードルを跳び、春になると平地に戻ってくるというルーティンをこなしています。向こうの障害レースは、イギリスでは障害のグランドナショナルが平地のダービーを人気・馬券売上ともに追い抜き、アイルランドでは年間レース回数で上回っています。それだけレベルが高いということになります。生半可な気持ちでは二刀流は勤まりません。

ヴォーバンはこの後、平地G1を大目標に愛セントレジャー、そしてオーストラリア遠征してG1メルボルンCで二刀流の真髄を極めようと調教師のウィリアムズ・マリンズさんとともに準備に余念がありません。少し前にヴォーバンとは同馬主同厩舎の縁があるマックスダイナマイトという馬がいました。彼はサンデーサイレンスの血を引く日本馬グレイトジャーニーのフランスでの産駒で、平地3勝・障害2勝を挙げた二刀流の先達でした。中でもメルボルンCに勇敢にチャレンジして3着に大健闘しています。日本育ちの血統であっても、調教や訓練次第では本場の障害&平地G1で差のないレースができることを証明してくれました。ヴォーバンは突然変異で偶然生まれた変わり種ではなく、陣営の周到な準備とその積み重ねにより成し遂げられた必然の創造成果だったのです。サラブレッド版ショウヘイの活躍を注目していきたいと思います。

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