海外だより

シャドウェルの快進撃!

ヨーロッパ競馬と言えば、モハメド殿下が率いるゴドルフィン軍団と稀代の名伯楽エイダン・オブライエン調教師が采配するクールモアグループのガチンコ一騎打ちのイメージが強いのですが、アガ・カーン殿下やジュドモントファームなどのお馴染みのオーナーブリーダーも健在で、頂点を争うG1レースはそうした実力派オーナーたちが真っ向からシノギを削る桧舞台になっています。そうした伝統的にハイレベルなヨーロッパ戦線の昨今、飛び抜けた活躍を見せているのがシャドウェルグループです。昨年、持ったままの手応えでG1レースを勝ちまくりカルティエ賞の年度代表馬に輝いたバーイードが記憶に新しいのですが、年が変わっても好調ぶりにますます拍車がかかっています。シャドウェルグループは、ゴドルフィン総帥のモハメド殿下の兄君としても高名なハムダン殿下が牽引するオーナーブリーダーで、英愛米の3カ国に生産調教拠点を構え、ディープインパクトとは近親に当たる英二冠馬ナシュワンを皮切りに、ゴドルフィン似のロイヤルブルーを基調に純白の肩章が目に鮮やかな勝負服をまとった名馬の数々を輩出しています。

これだけのサラブレッド大軍団を育て上げたハムダン殿下は、一昨年惜しまれて亡くなりました。ちょうど開催を迎えていたドバイワールドカップデーは喪に服す形で行われています。幸いにも殿下のサラブレッド資産は娘さんのヒッサ王女に引き継がれますが、王女は頭数を絞り込んで「少数精鋭」のトップアスリート集団に再編、それぞれのカテゴリーで頂上に聳え立つG1レースを目標とします。言葉で語るほど簡単な事業ではありません。しかしその桧舞台中の桧舞台でバーイードが大仕事を成し遂げました。バーイードが引退した今年も、ロイヤルブルーに純白肩章のサラブレッドたちは無双し続けています。早春のドバイ開催でジェベルハッタとアルクォーツスプリントの2つのG1を制圧したのを皮切りに、ヨーロッパがシーズンインした5月からは毎月のようにG1で凱歌を上げています。

先ごろのキングジョージ6世&クイーンエリザベスSで頂上に登り詰めたフクムにとどまらず、ロイヤルアスコットのプリンスオブウェールズSで金星を挙げたモスターダフ、つい昨夜はグロリアスグッドウッドの日本馬ディアドラが勝ったことで有名なナッソーSをアルフスンがジャイアントキラー(大物喰い)を成し遂げています。G1を狙って勝ち切るなど、途方もないことに思えます。ハムダン殿下が遺されたレガシーを花開かせた陣営のスタッフには驚かされるばかりです。この奇跡的な伝承のドラマが、果たしてどこまで継承されるのか?300年を超えるサラブレッドの歴史にも、稀有な事跡を我々は目撃しているのかもしれません。

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