海外だより

正念場に挑むオーギュストロダン

ディープインパクト最後の大物オーギュストロダンが、英愛ダービー連勝に続いて、世代を超えたチャンピオンシップ・キングジョージ6世&クイーンエリザベスSの舞台で秘められた才能を惜しげもなく披露してくれます。オーギュストの今季は、ニジンスキー以来半世紀超ぶりの三冠達成を目標に2000ギニーからスタートしました。しかし当日がチャールズ3世の戴冠式と重なり、エイダン・オブライエン厩舎のルーティンである当日輸送が認められず、馬もスタッフも慣れない前日輸送でレースに臨みます。ボタンの掛け違いはこれで終わらず、決戦の地ニューマーケット競馬場は降雨で重馬場、飛びのキレイなオーギュストに暗雲がたれ込めます。悪いことは重なるもので、ゲートが開いた直後、隣枠の僚馬ビッグリトルベアと接触して後方に置かれ、まったくレースにならない走りしか見せられませんでした。この一戦でクラシック戦線のヒーローを期待されたオーギュストへの評価が揺らいだのは間違いなかったようです。

英ダービー当日、今度は国民的人気の高いサッカーの選手権決勝と重なり、発走時刻が午前中にずらされます。こんなことも滅多にない経験です。しかし熟練の厩舎力が発揮され、前々日輸送と馬を落ち着かせる時間をたっぷりとって臨み、食い下がるキングオブスティールを半馬身抑え込んで栄光のゴールに飛び込みます。しかし2000ギニーの不可解な大敗のイメージを残していた世評は世知辛く、欧州競馬に大きな権威と影響力を誇るタイムフォーム誌がオーギュストに贈ったレーティングは125ポンドと案外なものでした。愛ダービーをねじ伏せても評価は変わらず125ポンドが据え置かれます。英愛ダービーとも良馬場でのレースだったため、道悪への不安が割り引かれているようです。オーギュストへの非常にシビアなジャッジに対して、愛2000ギニー・セントジェームズパレスS・エクリプスSを3連勝した同じエイダン・オブライエン厩舎のパディントンには130ポンドが与えられいます。もちろん女傑エミリーアップジョンなど古馬を一蹴したエクリプスSの内容が買われてのジャッジであり、その評価に異存はありませんが、オーギュストロダンのポテンシャルは125ポンドには収まらないのでは、と期待する気持ちも捨てきれません。いずれにしろ、今週の一戦がすべてを明らかにしてくれるはずです。

近年は小頭数レースが続いて、少し味気ない思いをさせれたファンにとっては質量ともに大満足の11頭立てです。当初は世代順にアダイヤー、デザートクラウン、オーギュストロダンロダンと3世代ダービー馬の揃い踏みがトピックスのトップを飾っていましたが、ともに出走を回避しました。次にクローズアップされたのが、ダービーでオーギュストロダンに食い下がったキングオブスティールがロイヤルアスコットのG2キングエドワード7世Sを完勝して自信を深め、当初の予定だったG1パリ大賞からこちらに目標を切り替えてライバル打倒に並々ならぬ決意を表明しています。上がり馬フクムは、昨年、異次元のレースぶりで年度代表馬に輝いたバーイードの全弟が魅力です。素質開花させたG1コロネーションC圧勝から骨折で1年間休みましたが、復帰戦の前走G3ブリガディアジェラードSでデザートクラウンを倒し健在をアピールしました。大事に使われて衰えはありません。ジャイアントキラー(大物喰い)の本領を発揮されても驚けません。ちょっと勝ち運から遠ざかっている女傑エミリーアップジョンですが、騎乗停止から戻って来た“神騎手”ランフランコ・デットーリがラスト・キングジョージに渾身の鞭を振るいます。紅一点ながら、その存在感を爆発させるでしょうか。それにしても豪華メンバーが揃ったものです。これだけのメンバーを向こうに回して強い競馬を見せられるようなら、オーギュストロダンの頭上を覆う暗雲は一気に晴れ渡ります。偉大なディープインパクトのサイアーラインも不滅の輝きを放つことになりそうです。海の向こうから目が離せません。

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