海外だより

G1ばかりが競馬じゃない

英愛ダービーをダブル制覇したディープインパクト最終世代のオーギュストロダンなど、日本由来のサラブレッドたちの活躍が毎週末のように届けられる昨今ですが、同じヨーロッパでもグレード格付けを持たないハンデ戦や一般レースとなると、手のひらを返すように途端に情報量が少なくなります。最近は海の向こうで愛馬を走らせる馬主さんも増える一方で、エリアもほぼヨーロッパ全域に広がっているようです。馬主さんそれぞれの地縁や人と人の絆でそうなるのでしょうが、全般に預託料が格安なことも大きな魅力になっているようです。多くの馬主さんが良くおっしゃるには、馬代金は高いには高いが夢への投資と考えるとしても、月々の固定費として付いて回る預託料の負担は非常に厳しく感じられるようです。人生の愉(たの)しみの一つとして長く続けようと思えば、少しでも身軽な負担で済ませたいと思うのは人情でしょう。まぁ、ときにレース観戦に出掛けたりすれば(それも楽しみの一つです)JRA在厩と最終的な収支はトントンということなのでしょうが、そうだとしても預託料負担の安さは有り難く思えます。

今週末のアイルランド・カラ競馬場では、G1愛オークス2400mが開催されます。注目を集めているのはセーブザラストダンスという今は亡き大種牡馬ガリレオの忘れ形見です。未勝利勝ちから挑戦したオークストライアル・チェシーSで好位から伸びて22馬身と想像を超えるブッチギリ劇で圧勝してスターダムにのし上がった新星です。英オークスは緩急差の急激なトリッキーな展開に苦しみ2着に敗れましたが、苦い経験を糧に巻き返しが期待される今回です。「ラストダンスは取っておいて」と小洒落た馬名通りにファンを快哉させてくれるでしょうか。一方、そのアンダーカード(前座)として組まれているG2カラCも興味深い一戦です。日本人馬主が所有するオキタソウシというガリレオ産駒が穴人気を呼んでいるようです。このレースにも格付けはありませんが、少頭数が通り相場で馬券的妙味に乏しいG1レースなどに比べても、頭数も揃いゴール前の攻防が激しくなるハンデ戦にファンの人気も馬券売り上げも集中します。中にはG1レース以上の高額賞金を提供するハンデ戦もあるほどです。競馬のレースには、それぞれの面白味や醍醐味が存在します。ヨーロッパでは、グレードレースばかりが競馬じゃないのは常識です。

オキタソウシの馬主の松本俊廣さんは日本でもシンザン記念を勝ったグアンチャーレなどを走らせていますが、アイルランドではクールモアとの共同所有でエイダン&ジョセフ・オブライエン厩舎を拠点にオキタソウシを筆頭にコンドウイサミ、ヒジカタトシゾウなど「新撰組由来」のサラブレッドを活躍させています。オキタソウシはロイヤルアスコット開催の前走デュークオブエディンバラSで、鞍上ライアン・ムーアとともに晴れやかな勝利に輝いています。日本人馬主で英国王室から優勝カップを贈与されるのは、おそらく初めての快挙です。未グレードのハンデ戦でしたが、この栄誉は何ものにも代えられない名誉です。おめでとうございます。今回はライアンが騎乗するエイダン厩舎のエミリーディキンソンが強敵になりそうですが、肉を斬らせて骨を断つ、沖田総司ゆかりの一閃で馬主さんやファンを喜ばせてくれるでしょう。地味に思えるアンダーカードとはいえ、応援が白熱しそうです。

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