海外だより

今夏のヨーロピアンヒーロー

レーシングカレンダーの上では、やっと折り返し点を迎える時季ですが、気の早いファンは年度代表馬の話題に気を惹かれているようです。一戦一戦の積み重ねが年度代表馬(ヒーロー)という大輪に実を結ぶわけですから、競馬のそういう楽しみ方もアリなのでしょう。ファンがヒーローを待ち望むのは、JRAもヨーロッパも変わりがありません。パディントンというアイルランドの名門エイダン・オブライエン厩舎のシユーニ産駒がそのヒーロー候補の一頭です。2歳時の初勝利からクラシックの愛2000ギニー、カテゴリー頂上戦セントジェームズパレスS、古馬混合初戦のエクリプスSなどG1レース3勝を含めて無傷の6連勝でスターダムを駆け上って来た上昇馬です。初距離が心配されたエクリプスSでは、4頭立ての小頭数ながら、ポテンシャルの高さに定評があり、末脚のキレには絶対の自信を持つ女傑エミリーアップジョンとの一騎打ちでしたが、怯むことなく怒涛の追い込みを封じ込めて見せました。父シユーニはマイル前後のスピード勝負を得意とする産駒が多いのですが、母父ガリレオのサポートを受けて凱旋門賞を制したソットサスのようなタイプも輩出しています。パディントンは、母父モンジュー、祖母はパントレセレブルといずれも凱旋門賞馬の血を受け継いでおり、追われてバテないレースぶりからも距離適性には問題がないと考えられていました。エミリーアップジョンが追っても追っても追いつけない末脚の粘り強さで、その天賦の才を証明できたようです。

ご存じのようにエクリプスSは、クラシックを戦い、ロイヤルアスコットで国境を超えたライバルと相見(あいまみ)え、ヒトカワむけた若駒たちが歴戦の古馬陣に初挑戦するステージとして伝統を積み重ねて来ました。斤量差はあるものの、初めて古馬の胸を借りる試練の場を、いきなり勝利で飾るのは簡単ではありません。その至難の業を成し遂げるような馬であれば、シーズンの閉幕時には年度代表馬級の名馬に成長することも、頷けようというものです。この名物レースを勝った3歳馬から、その年のヨーロッパの頂点に立つ年度代表馬が選出されるのも自然の流れでしょう。今世紀に入ってからも、ジャイアンツコーズウェイ、シーザスターズ、ゴールデンホーンなどの名馬が栄光の序列に名を印していますが、とくに近5年はロアリングライオン、エネイブル、ガイヤース、セントマークスバシリカと4頭もが頂上を極めています。中でもセントマークスバシリカは同じオブライエン厩舎の同じシユーニ血統であり、鞍上も勝手知ったるライアン・ムーア騎手ですから、心強さもひとしおです。

ただ今後については、厩舎仲間のディープインパクト最終世代オーギュストロダンとの兼ね合いもありそうです。2000m級、2400m級の王道路線は彼が主役を張るでしょうから、パディントンはマイル路線に舞い戻って、そのカテゴリーでチャンピオンを目指すのでしょうか?それぞれの次走は、オーギュストロダンがアスコット2400mのG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、パディントンはグッドウッド1600mのG1サセックスSをオブライエン師は脳裏に描いているようです。とは言え、まだ評価が定まりきらない若駒の未来の話ですから、走るたびに色々な考えが雲のように湧いて来るのも当然でしょう。ステーブルメイト同士の激突か、あるいは新たなライバルが出現するのか?シーズンの折り返し点のここからが勝負も白熱します。ディープインパクトの最期の大仕事に視線が釘付けになりそうですが、ライバルがいてこそ盛り上がりも一層。豊穣の夏秋を楽しみたいと思います。

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