海外だより

古馬対決にときめく欧州の夏

初夏7月の声を聞くと、イギリス・アイルランド・フランス3国を中心とするヨーロッパのパート1国では、クラシックが一段落し、それぞれを勝ち抜いた各国の強豪がロイヤルアスコットなどに集結し激突する世代頂上戦を経て、古馬の胸を借りる世代混合戦がスタートします。
サンダウン2000mで行われるチャンプオンシップ・エクリプスSが有名ですが、ニューマーケットではスプリントのジュライC、アスコットの王道距離2400mのキングジョージ6世&クイーンエリザベスS、そしてカレンダーをめくった八月初旬のグッドウッド開催にはマイルのサセックスS、マラソン距離3200m(2マイル)のグッドウッドCなど多様多彩なカテゴリーにおける華やかな最強世代決定戦が目白押しです。こうした熾烈なサバイバル(生き残り)を戦い抜いたもの同士がさらにフルイにかけられ、秋のチャンピオンシップに歩を進めることができます。我々はヒトクチに「凱旋門賞」などと気軽に言葉にしますが、そこに至る道の険しさ厳しさを思えば、簡単に勝てないのは当たり前でしょう。ここに至るまでに必要とされる資質は、持って生まれた天賦の才能だけでは十分ではないでしょう。まれに“晩成の大器”も現れますが、基本的にはクラシックに間に合うよう仕上がり早い早熟性が求められます。さらに様々な関門をくぐり抜けるには強(したた)かな成長力も欠かせません。

日本でもクラシックによる制約の少ないスプリント部門を中心に、こうしたヨーロピアンスタイルが徐々に形になりつつあります。以前は短距離馬でも賞金が足りればダービーに出走したものですが、ダービー前日に1200mのG3葵Sが創設され、それに続くサマースプリントシリーズが整備されたことで、若きスプリンターたちに進むべき道を示しました。「スプリント後進国」のイメージが強い日本競馬ですが、いずれ遠くない日に「短距離王国」オーストラリアや香港にヒケを取らない馬だ現れるでしょう。現にロードカナロアは香港で無双していますし、モーリスやサトノアラジンがオセアニアで種牡馬として大成功しています。スプリント以外のカテゴリーでも、遠く遥かな頂上への道筋を示すことで、強い馬同士が競い、優劣を決し、さらなる上のレベルへと進むロードマップがあると分かりやすいですね。ダート路線では、今年の2歳馬から中央や地方の壁を超えた全日本的な路線整備が進められています。何もかもを一遍に手がける必要はないでしょうが、ファンをワクワクドキドキさせる馬が出現しやすい環境が生まれると嬉しいのですが。

さて、今週土曜はG1エクリプスSが行われます。注目が、3週間後にアダイヤー、デザートクラウン、オーギュストロダンと近3年の英ダービー馬3頭が激突、伏兵陣も多士済々のキングジョージ6世&クイーンエリザベスSに集中するのは仕方がないのですが、こちらは4頭立てと日本では考えれない寂しい(というよりレース自体が不成立)出馬表になりました。しかし愛2000ギニー、セントジェームズパレスSとマイル頂上路線の先頭を走ってきたパディントンが距離を延ばしてチャンピオンシップロードに乗り込んできました。目下5連勝中と底を見せておらず、エイダン・オブライエン調教師もクールモアのリーダーであるジョン・マグナー氏も以前から距離延長に自信満々で、オーギュストロダンとの兼ね合いでマイルに専念させただけといった風情です。近年のシーザスターズ、遡ればミルリーフ、ダンシングブレーヴなど凱旋門賞制覇まで突っ走った名馬を続出させてきた名レースです。しかしマイルから、いきなり勝った馬は出ていません。怪物フランケルさえ、セントジェームズパレスSから2000m級G1へステップアップしたのは、その1年後でした。素質もそうですが、経験も重要なレースです。しかしオーギュストロダンに22馬身差の大敗から英愛ダービーをダブル制覇させたオブライエン師は、不可能と思われたものを可能にする名伯楽です。ここでも「史上初」を生み出してくれるのでしょうか?

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