海外だより

ケンタッキーダービーと競馬改革

ゴールデンウィーク真ん中の土曜日は、アメリカではチャールズタウンズ競馬場に集まった観客〝総出〟の「マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム(懐かしきケンタッキーの我が家)」の大合唱が流れ、大西洋の向こう側イギリスのニューマーケット競馬場にはシーズン開幕を告げる2000ギニーのファンファーレが響き渡ります。いよいよ待ちに待った本格的な競馬シーズンの到来に、世界中の競馬ファンの血が騒ぎ始めます。
さて、今年のケンタッキーダービー、嬉しいことに枠順発表が1週間も前倒しされました。最長9連休の前半戦を、馬券検討にたっぷり時間を費やせるようになり、勝馬推理にも思いつく限りのストーリーを思い描けるようになりました。競馬の存立基盤である〝公正〟の絶対性維持など難問は少なくなかったでしょうが、ファンにとっては大歓迎です。去年までとは異次元の新しい楽しみを創り出してくれたのですから。

ご存じのように〝自由の国〟アメリカでは〝自由競争〟が大原則で、ジャンルやカテゴリーを問わず厳しい競争に打ち勝たないと、産業の成長を実現できません。野球のMLB(大リーグ)の人気回復が話題になっていますが、投手の投球感覚を厳密に制限する「ピッチクロック」導入などでスピーディーな試合展開を推し進める一方で、ベースを大きくして盗塁チャレンジを推奨しスリリング要素を大盛りにした結果が、ドラマティックなストーリーを生み出し、若者たちを中心に新規ファンをスタジアムに引き寄せたと言われています。チャーチルダウンズ競馬場の〝大英断〟も国是となっている競争戦略の一端なのでしょうが、世界有数の〝少子高齢化社会〟である日本にとっては、アメリカ以上に競争を手段とする進化が必要とされている気がします。今回の降って湧いたような〝英断〟を、ぜひ日本でも「競馬のアタリマエ」の一つにしてほしいものです。年に一度のケンタッキーダービー限定の話ではなくて、その日のメインレース、それが無理なら重賞レース、せめてG1レースだけでも実施できないものでしょうか?JRAやNARの素晴らしい構想力、組織力、実行力を考えれば無理という回答は、どこを探しても出てこない気がするのですが。

テーオーパスワードは追い切り動画を見る限り、素晴らしい仕上がりに映ります。見事にシェイプアップされた馬体に漲(みなぎ)らせた集中力の密度の高さ、そしてリラックスした折り合いとの伸びやかなハーモニーが心地よいリズムを刻んでいます。ここまで実戦レースは、たった2回しか経験のない馬ですが、良くぞここまで万全と言える臨戦態勢に仕上がるものです。サラブレッドに生まれたゆえの本能に衝き動かされているのでしょうが、それをサポートした高柳大輔調教師、厩舎スタッフの皆さん、はるばるカナダから駆け付けた木村和士騎手など陣営の手腕の凄みは、冴え渡って感じられます。逆にフォーエバーヤングの直前追い切りは、鞍上と息を通わせると同時に、いつもながらの自由気ままさを失わない闊達(かったつ)さが伝わってくる内容でした。こうした型にはまらない柔軟性も彼のキャラクターなのでしょう。見た目には対照的にも思えますが、それぞれ自分の個性や能力を余すところなく発現できる状態なのでしょうね。楽しみは膨らむばかりです。最高の馬券検討環境が整備され、最高のサラブレッドたちが満を持してスターティングゲートに向かう。今年も想像を超えるだろう素晴らしいケンタッキーダービーが堪能できそうです。

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