海外だより

おもてなしウィーク

今週は障害レースの最高峰グランドナショナルが開催されます。フルゲート40頭の果たして何頭が完走できるか?それも賭けの対象になるほど、人気の高い国民的イベントとして親しまれています。このグランドナショナル・デーにあたる4月第2週には、日本ではクラシック三冠の第1関門・皐月賞と障害最高峰の中山グランドジャンプが土日セットでの開催が定着しています。歳末の風物詩としてお馴染みの国民的イベント・有馬記念も中山大障害とのセット開催です。障害レースの伝統を守り、末長く継承していくには、ファンの支持があってこそ、そう信じられたのでしょうか。東京競馬場よりは一回り小ぢんまりしているとは言え、そびえ立つスタンドがファンで埋め尽くされ、はち切れそうな有馬記念の光景を眺めるにつけ、競馬が何によって支えられ成長発展を実現しているかを、まざまざと思い知らされます。それは間違いなく、ファンの夢であり、それが走ることで熱くうねる興奮と感動のドラマなのでしょう。

有馬記念は、大人気を誇っていた東京競馬場のダービーに匹敵するビッグレースを中山競馬場にも創設しようと、当時の日本中央競馬会(現JRA)有馬頼寧(よりやす)理事長の発案で「中山グランプリ」としてスタートしています。プロ野球オーナーを務めるなど野球にも造詣の深かった有馬理事長が、オールスター戦に熱狂する国民の姿に共感して思いついたのでそうです。ご承知のように、この大先達ホースマンのアイデアは、オールスター戦方式が世界中に広がるほど大成功を収め、日本の年度代表馬決定戦的イメージもしっかり根づいて、今や昨年の有馬記念馬で年度代表馬のイクイノックスがレーティング世界一にランキングされるなど、「世界の有馬記念」へと大きく飛躍しています。

有馬記念・皐月賞の中山最高峰レースと障害最上級レースとのマッチングは、素晴らしいアイデアでした。まだネット馬券など存在しなかった時代ですから、当日の混雑を避けて前日に馬券を買い求めに競馬場へ出かけるファンが多いことに着目した知恵者の勘が働いたのでしょうか。セット開催は、馬券売上げを押し上げたのは当然ですが、日ごろ馴染みの薄い障害レースに直に接する絶好の機会となり、地道ですが障害レースの理解者やファンを徐々に増やしていきます。これもJRAや中山競馬場の関係者の皆さまの無私の競馬愛の賜物だろうと思います。思い出すのは、11年の大震災の折です。中山競馬場もスタンドが倒壊するなど大きな被災に見舞われ、皐月賞は東京競馬場に移設して行われました。しかし中山グランドジャンプは7月開催に順延され、中山競馬場を離れることはありませんでした。クラシックレースは、毎年同じ時期に開催し続けることが鉄則ですが、障害の頂上戦は中山というロケーションを抜きに考えられないとされたからです。広大な東京とは異なり、小ぢんまりしているがゆえに、臨場感豊かにレースを体感できます。中山の風景の中で中山固有のハードルを飛越してこそ、中山大障害であり中山グランドジャンプだと信じられて来たのでしょう。とかく商売っ気が抜けないJRAなのですが、何とも粋な配慮です。ファンの誰もが見たい最高峰レースと最上級レースを同時に体感できる最高のおもてなしが息づいている、中山競馬場にエールを贈りたい気持ちです。

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