海外だより

香港競馬の脅威と期待

今週末は香港・シャティン競馬場を舞台に、シーズン後半のビッグイベント「香港チャンピオンズデー」が開催されます。日本からも4頭が参戦、JRAから馬券のサイマル(同時)発売が行われます。それにしても香港競馬の近年における急成長ぶりには目を目張るものがあります。毎年のように賞金が増額され、そのスケールは日本と肩を並べ、
世界のトップクラスに達しています。世界各国の一流馬が参戦するのが、レースの格式でありブランド価値とするなら、香港は日本を上回っている面もあります。長い間、エリザベス女王を君主と仰ぎ、イギリスを中心にヨーロッパ諸国と親密な関係を築いてきました。英愛のホースマンにとっては、我が家のはなれに出かけるような気楽さがあるのでしょう。アイルランドを中心にサラブレッド市場の重要な顧客でもあり、通り一遍のお付き合いでは礼を失します。さらに加えて、ヨーロッパとは比べものにならない高額賞金が、遠路はるばるの遠征も苦にならない大きなモチベーションになっているのでしょう。

最高峰は、シーズン前半のクライマックス「香港国際競走デー」の華であるG1香港カップでしょうか。3000万HKドル≒5億1000万円の賞金総額は、香港の勢いをライバル視したJRAが今年からジャパンカップと有馬記念の1着賞金を5億円に大幅増額するまで、断然のアジアNo.1に君臨し、世界を見渡しても優にベストテンを形成するハイレベルでした。さらに香港ジョッキークラブは重賞レースばかりではなく、一般レースにも手厚い賞金体系を提供しており、中には非重賞でもG1並みの番組が組まれています。「香港三冠」と呼ばれるクラシックレースは、国際的な格付けはリステッドにとどまっていますが、いずれも日本円にして1億円を超える1着賞金が準備されています。中でも「香港ダービー」は総賞金2600万HKドル≒4億4200万円、1着賞金は3億円近くに達し、国際G1に認定されている「東京優駿」(日本ダービー)を脅かす存在まで成長を遂げつつあります。

最高峰クラスの重賞から一般レースまで、幅広く潤沢な賞金体系を提供することで、目に見えて香港在厩馬の質がレベルアップし、レースの質をも向上させているのは間違いありません。ご承知のように香港は「生産なき競馬大国」として有名で、競走資源のサラブレッドはすべて輸入に頼っています。いろいろ議論はあるでしょうが、高額賞金の後押しにより手っ取り早く競走馬のレベルアップが図れる利点は大きいでしょうね。主要な輸入先はオーストラリア、アイルランドの二大馬産国ですが、最近はロードカナロアやモーリスなどが香港で活躍し、日本のセレクトセールなどにも注目が高まっているようです。既にオーストラリアやニュージーランドで日本発血統の台頭が目立っており、これに香港を加えたアジア太平洋競馬圏が遠くない将来に誕生するのかもしれません。

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