ゲスト (有)サンデーレーシング代表 吉田俊介氏

02. 合言葉は、ONE TEAM!

合言葉は、ONE TEAM!
エリザベス女王杯を制したブレイディヴェーグと牝馬三冠という偉業を成し遂げたリバティアイランドについて語っていただいた前編に続き、(有)サンデーレーシングの吉田俊介代表をゲストに迎えた『G1オーナーに乾杯』の後編は、牧場の働き手など、競馬界を取り巻くさまざまな諸問題について話を伺った。

競馬の未来

――サンデーレーシング代表で、ノーザンファーム副代表という肩書きを持つ俊介さんの1週間は、めちゃめちゃハードだと思うんですけど、基本的なスケジュールは、どうなっているんですか。

吉田土、日は競馬場。火、水、木は北海道で仕事をして、金曜に東京で仕事をする……というのが理想なんだけど……そんなにうまくはいかないですよね(苦笑)。
先週は、ブリーダーズカップからケンタッキーのセリに行って、日本に帰って来たのが金曜日。それから1日だけ北海道にいて、日曜の朝に京都競馬場に行って、夜はパーティー。月曜に北海道に戻って、今日は日帰りで東京……という感じですね。

――メインの仕事は何になるんですか。

吉田30歳の頃からマネジメントの仕事をしているんですが、前はもっと現場に近い感じで、いまより、はるかにたくさん馬を見ていましたね。

――現場に出るのが少なくなった?

吉田会社が大きくなるにつれて、そうなりましたね。現場に出る機会が減ったのはすごく寂しいし、悲しいんですけど、立場上もそれは仕方のないことだと思っています。

――夜は毎日、パーティーや飲みですか?

吉田コロナ禍前はそうでしたね。でも、コロナ禍で、生活も一変したし、生き方そのものが変わったような気がします。

――それって…具体的にはどういうことでしょう。

吉田以前は、ほぼ毎日、夜は飲みながら仕事の話をしていて。それも大事な仕事のひとつだと思っていたというか、それが当たり前だと思っていたんだけど、コロナ禍でそれができなくなったことで時間が出来て、余裕のある仕事の仕方ができるようになりましたよね。

――なぁんだ、毎日、飲まなくてもいいんだと(笑)

吉田そう(笑)。で、余った時間で、乗馬を始めたり、知り合った高校生や大学生と話をしたりして、いい刺激をいっぱいもらっている感じです。

コロナ禍を超えて

――これから、やりたいことってありますか。

吉田基本は、会員さんのため、従業員のため、喜んでくれるファンのために、自分の牧場の馬を走らせること。これは変わりません。

それに加えて、最近は、競馬業界のために、生産業界のために、いろいろやらなきゃいけないなと思うようになりました。

――俊介さんもそういう年齢になったんですね。

吉田年齢もあるし、さっきも言ったように、コロナ禍で、生き方そのものが変わったのもあるし……同じものを見ていても、見る視点が変わって来たというのはありますね。

――人口減少の影響で、牧場の働き手も減っているんですよね。

吉田人手不足は、ほぼすべての業種で起こっていることだけど、だからこそ、いい人材を確保するためには、馬のそばで働くことの魅力を、業界全体で、もっと、もっと、アピールしていかなきゃいけないと思っています。

――働き方改革の問題もありますしね。

吉田ウチの勤務時間は、きっちり8時間です。出勤は6時半。途中、2時間の休憩を挟んで、夕方の4時半には終わる人が多いですよ。

――みんな、そのあと、どうしているんですか。ススキノに飲みに行くとか?

吉田自由です。ただ、毎朝、アルコールチェックをしているので、昔のように、朝まで飲んでそのまま仕事に来ました……なんていう人はいないですけどね。

――武勇伝も減っている?

吉田ない、ない(笑)。

朝まで飲んでなんていう話は、誰からも共感が得られないし、なんの自慢にもならないですから。

――採用人数は減っているんですか。それとも、増えているんですか。

吉田おかげさまで、ウチの今年の新規採用は66人で。馬に乗ったことがないという人も、24人います。

――それは、すごい!

吉田指導部の人たちは大変ですけど、でも、みんな、モチベーションが高くて、馬に乗れるのが楽しい、うまくなるのが楽しいという人ばかりなので、一年後には競走馬に乗れるようになっているし、早いと、8ヶ月で坂路を走っている人もいます。

海外へ

――外国人の乗り役さんもたくさんいるんですよね?

吉田多いですよ。いまは、40人をちょっと超えるくらいかな。言葉や文化の壁はあるんですけど、野球でいう『助っ人』ではなく、ラグビーでいうところの『ONE TEAM』……同じ目標を持って進む仲間だという思いがあれば壁は乗り越えられるし、そういう人たちを大事にしていきたいと思っています。

――外国人のスタッフもそうですが、若いコたちの気質も、昔とは全然、違って来ているんでしょうね。

吉田いまの若いスタッフは、わからないこと、疑問に思ったことがあったら、とにかく質問してきますね。

――昔と違ってコンプライアンスの問題があるから、上の人間も、“ばかやろー!”とは言えないんでしょうね?

吉田もちろんです。でも、それで逆にいいこともあって。

――どういうことですか?

吉田僕も含めてですが、聞かれたら、それに答えなきゃいけないじゃないですか。しかも、きちんと、正確に、わかりやすい言葉で。そのためには、こっちも普段から勉強しておかなきゃいけない(苦笑)。

――なるほど。人手不足を含めて、競馬の未来が心配だなぁと、勝手に憂いていたんですけど、大丈夫かも!? という気持ちになって来ました。

吉田もっと憂いてください。

――えっ!? そう……なんですか?

吉田ウチも、ここまでくるのは大変だったし、いま現在だって、これからだって、これで、大丈夫なんてことはないですから。業界が良くならないと、ウチもダメになる――そういう視点で、いろいろな課題に取り組んでいくつもりです。

――例えば?

吉田JRAさんが、引退馬への支援をしているんですけど、僕らも一緒にやっていけることがあったら協力していきたいというのもそのひとつです。

――他にもありますか。

吉田馬のマネジメントをする立場から言うと、日本の競馬を盛り上げるための一歩として、もっと、積極的に海外に出て行かなきゃいけないし、そこで勝てるような環境を作っていかなきゃいけないなと思っています。

――今、以上に、ですか?

吉田いまもやってはいるんですけど、それを継続していかないとダメなんです。ウチの場合、毎年、同じ人を海外に派遣して、そのノウハウを積み重ねて……輸送だったり、現地での過ごし方だったり、そういう経験値を少しずつ積み重ねていった先に、勝利はあると思っているので、そこはこれからも継続して、競馬ファンの皆さんに喜んでもらえるような話題を提供していきたいと思っています。

(構成:工藤 晋)

よしだ・しゅんすけ
1974年生まれ
(有)サンデーレーシングの代表で、ノーザンファームの副代表。

キャプテン渡辺
1975年10月生まれ
お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中

※この記事は 2023年11月24日 に公開されました。

×