第4回錦笑亭満堂さん

落語家

落語家になる前から、競馬は好きだったが、「たまに買う」という程度の距離感だった。しかし、今は違う。毎週日曜のメインレースは必ず買っている。
なぜなら、私の師匠である三遊亭好楽が無類の競馬好きで、月曜日にかかってくる電話は決まって、「昨日は(戦績)どうだったい?」から始まるからだ。

「僕は負けました。」と伝えると嬉しそうに、
「ワタシはね…取っちゃった! アハハハハ!」
師匠は大体メインレースの馬券は当てる。そりゃあそうだ、あれだけ買い目を増やせば、誰だって、当たるだろうと、弟子達は皆思っている。

それでも当たりは当たり。当たった時の喜びは、もちろん知っている。師匠はご機嫌で、話しは止まらない。

「本当は別の馬を本命にしていたんだけど、大好きな騎手だからさ、もしかしたら、4コーナーから最後差してくるんじゃないかと思って、押さえで買ったら本当に来てさ! いやぁ嬉しかったね。だって馬単だけじゃなく、3連単も買ってたからさ、アハハハハ…!」

しばらくして僕が適当に相槌をうっていることに気づいたのか、
「あ、長くなって悪かったね。じゃあね。」
「いやいや、師匠! あの、用件が…。」
「アハハハハ! ごめんごめん。そうか競馬以外の話もあったか! あ、そうだね。これからお前と落語会一緒だったね。アハハハハ! あ、じゃあお腹空いてないかい? その前に、お昼食べてから一緒に行こう。」

師匠にお昼をご馳走になる。そこでも、もちろん話題は競馬の話。電話と同じ内容を、また1から聞く羽目に。食事を終えると、師匠は鞄から徐に、僕の名前が書いてあるポチ袋を取り出す。

「え? 師匠、これなんですか?」
「いやいや、電話の時から当たった当たったって自慢話しちゃったじゃない? 人の自慢話はつまらないだろ? はい! お小遣い! 自分だけ儲かったら周りに使わないと、次当たらないからさ。アハハハハ!」

うちの師匠はたまに、こういう粋な事をする。だから、師匠を悪く言う人を見たことがない。
確かに買い目は沢山買うけれど、それだけではない。もし、「競馬の神様」がいるのなら、周りに優しく振る舞う師匠には、特別にご褒美を与えているのかもと、最近思う。

僕に取っての験担ぎは、物事ではなく、人間・師匠好楽を見習うこと。そうすれば、すぐにではないかもしれないが、必ず良い結果が出ると信じている。
ただし、師匠のメインレースの本命だけは見習わない。
聞いた通りに買って、当たった試しがないからだ。

競馬の神様…。そろそろ、僕にもご褒美いいですか?(笑)

リレーバトン 次回は

三遊亭好楽さん です。

※この記事は 2024年3月15日 に公開されました。


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