ゲスト
武士沢友治 さん JRA競馬学校教官

02. その子の得意分野をどんどん伸ばしてあげる

その子の得意分野をどんどん伸ばしてあげる
競馬学校教官武士沢友治さんをお迎えしての『ホースと共に!』。今回は、競馬学校での教育のあり方についてお話を伺いました。

注目される競馬学校での教育

細江そういえば、武士沢くんは騎手を辞めたいって思ったことはない?

武士沢辞めるというか、騎手をしていて不安なことばかりでしたよ。もう難しいなと思って考える。でも、もう少し自分のできることを続けよう。調教も競馬も頑張ってみよう、ってこれをもう1年、もう10年、もう15年と何回も繰り返して28年やってきたって感覚です。

細江積み重ねのたまものですね。

武士沢あとは、大きな怪我をしなかったのも大きいですね。(武)ユタカさんや(横山)ノリさん、(柴田)善臣さんとか、50歳を越えても活躍している。メンタルや肉体的なことをどうケアしているのか聞きたいですよね。

細江この前ユタカさんと話した時、「若いジョッキーたちのトレーニングに感化されて、いまは自分も取り入れている」と。

武士沢若い世代に刺激を受けて、考え方もアップデートしているんですね。スゴイですよ。ユタカさんのドウデュースでの天皇賞・秋制覇は格好良かったしスゴかった。僕も競馬学校の子たちと一緒にいて、気分が若くなっていると感じます。

細江お互いに刺激し合っている、いい関係ですね。ところで、教官になって半年で騎手の問題が多く出てきていますよね。そんな中で、競馬学校での教育にも注目されています。そもそも、わたしたちの頃と規則が違いますよね。いまはお菓子を食べたり、ジュースを飲んだりもできるんでしょ。一切ダメと言って飲食に気を取られるより、技術的なことを考える時間が増えるのは悪いことではないように感じますが。あとスマートフォンとかね。

武士沢飲食に関しては自由な代わりに自己責任になりますし、バランスが難しいですよね。スマホも、いまの生徒は生まれた時から存在していたわけですから。実際、トレセンでは調教時間や場所の変更などの連絡にスマホが必要です。学校生もトレーニングデータの打ち込みなどに使っています。僕らの時代には考えられないことですけど。

細江そうそう。競馬学校の中と、外にある電話ボックスが一台づつ。しかもかける時間が決まってて。テレホンカードを持ってみんなで並んだよね〜。

武士沢テレカって若い子に言っても分からないですよ。スマホだけではなくモラルに関することは、デビューしてからは先輩など周囲にいる人の影響も強くなりますしね。僕自身はLINEもInstagramもやったことがないんです。でも、いまはSNSをしている騎手が多いし、人によってはエゴサーチもする。スマホに支配されないでほしいですよね。

細江ほんとそうですよね。

武士沢大変な思いをして騎手になったのに、免許を取られるなんてね。僕からしたら難しいな。騎手人生を失うなんて。どうしても必要な時代だからこそ、ちゃんと自分自身を管理しないといけませんよね。子供も馬も、間違ったことしますよね。そのたびに「どうしてダメか」を教えます。それと同じで、学校生に言い続けるしかないですよね。

細江歴史的な背景も交えて、納得する説明を繰り返ししていくのは大事ですよね。それが今後の騎手人生を守ることにもなりますから。それができるのはデビュー前に生徒と接する競馬学校の強みだと思います。

武士沢スマホに関しては調教時間や臨場業務連絡なども含めて、トレセン内の事情もありますからね。

その子の得意分野をどんどん伸ばしてあげる

細江問題も多い一方で、素晴らしいのは今の生徒の技術力の高さです。身体能力は高いし、トレーニングの方法も素晴らしい。

武士沢ホントにスゴイですよ。僕らの頃とは段違いです。トレーニングの仕方が違います。フィジカルの面が素晴らしいので、メンタル面と両方が融合できれば最強です。

細江そのバランスを取るのが指導で大事なポイントですね。

武士沢その子の得意分野をどんどん伸ばしてあげるとか、個性を見てあげることですよね。自分の体験した騎手になってからの生活や考え方、厩舎との付き合い方、情報機器の使い方。教えたいことがたくさんあるんです。3年間じゃ足りないかも。

細江指導した騎手が活躍して華やかになり、競馬全体の人材確保にもつながるといいですね。

武士沢その問題は競馬学校だけじゃどうにもできません。馬主さんや牧場など、多くの関係者の協力がどうしても必要です。牧場で働いていた人が競馬学校に入ったら、そこの人手が減ることになるんです。その時、みんなでどんなサポートができるかなんですよね。たくさんの人が競馬の仕事をしたいと希望することにつながるといいですね。で、たま〜に元生徒が学校に帰ってきて話をしてくれるとか。そんな仕事ができるといいなと思っています。

細江本当に、そうですね。貴重なお話しを、ありがとうございました。

(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

武士沢 友治
1978年青森県出身。1997年騎手デビュー。JRA通算成績は340勝。重賞5勝。2024年3月騎手を引退。現在、JRA競馬学校教官。

細江 純子
1975年愛知県出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。

※この記事は 2024年11月16日 に公開されました。

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