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戸本一真 さん パリオリンピック銅メダリスト

01. 奇跡中の奇跡。大岩さんがゴールを切った瞬間、涙が出て止まらなかった

奇跡中の奇跡。大岩さんがゴールを切った瞬間、涙が出て止まらなかった
パリ2024オリンピック、馬術の総合馬術団体で92年ぶりメダル獲得の快挙を成し遂げた戸本一真さんに、ホースと共に歩んだドラマを語っていただきました。今回は第1回目です。

オリンピックに出るまでの道のり

細江これが、パリオリンピックの銅メダル。重たいですね。総合馬術団体で、戸本さんは、大岩義明さん、北島隆三さん、田中利幸とのチームで銅メダルを獲得しました。もう、反響がすごいんじゃないですか?

戸本ありがたいですね。オリンピック後は、乗馬クラブに「総合馬術をしたいんですが」という問い合わせが増えているそうです。ホームページのアクセスも、以前の10倍と聞いています。

細江すごい! これまでは、「総合馬術ってなに?」って。馬場馬術、クロスカントリー、障害飛越の3つを、減点方式で競い合うんですってところから、説明しなくちゃいけなかったのに。乗馬の普及への貢献という面でも、メダルを獲った影響は強いですね。

吉田影響絶大です。

細江メダルにいたるまでの道のりも厳しかったと思いますが。まず、オリンピックに出場するまでが大変でしたよね。

戸本はい。東京オリンピックが終わった翌年、2022年のイタリアの世界選手権で、日本はパリに向けての団体枠を獲ることができませんでした。23年のアイルランドでの地域予選もダメ。

細江もう、出場の危機ですね。

戸本そうなんです。こうなると、個人の出場を目指すことになります。それまで、「みんなで、団体でパリに行くぞ!」って頑張っていた仲間がライバルです。しょっちゅうしていた電話もお互いにしなくなりましたし、週末の試合で「誰々選手が何位で何ポイントだったよ」って、好成績なのを、素直に喜べないというか。

細江そういう時って、自分も含めてですが、人の汚い部分と向き合わなくちゃいけないですもんね。つらいですよね…。

戸本うれしいけど、みんなと自分のポイントの計算をする。「やばい!」ってなっちゃうんです。その中で、僕は個人でも出られそうなところまで行けました。そんななか、団体の上位にいた中国チームが失格になって。

細江日本チームに出場枠が回ってきたんですね。あとは、誰が代表になるかが焦点になります。

戸本5人いた候補から、3人が選ばれる代表争いとなりました。でも、僕が出る予定だった予選会が悪天候で中止になったんです。それでバックアップに考えていた試合に出たんですが、僕はここで落馬をしてしまいました。

細江じゃあ、そのまた次の試合に望みをたくすことに?

戸本そうです。その試合で、万が一にもミスをしたらパリに行けない。ギリギリのタイミングでしたが、ここで無事に権利を取れました。普段の試合で優勝しても、さほど連絡はこないんですけど、この時はみんなからメールがきました。

奇跡中の奇跡

細江「おめでとう〜」って。みんな、心配してくれていたんですね。そして、念願のパリ五輪。ここでも、チームに危機がありました。

戸本北島隆三選手の馬が、最後の障害飛越の前の獣医師の検査をクリアできませんでした。それで、リザーブの選手に交代になったんです。

細江選手交代で、20ポイントの大幅な減点に。この時点で5位となりました。チームの雰囲気は、どうでした?

戸本もう、メダルには届かないってなって。それを聞かされて、大岩(義明)選手と、厩舎への帰り道をトボトボ歩きながら「個人の競技で頑張りましょう」って話しました。でも、改めて他国との順位を見て点数を計算し直したら「まだいける」と。「諦めている場合じゃない!」ってなりました。

細江逆転は可能だと。その障害馬術は、馬場に設置されたさまざまな障害物を、決められた順番通りに飛越、走行して、ミスのないゴールを目指します。リザーブでの出場は田中利幸選手でしたが。

戸本はい。ところが田中選手、障害が苦手なんです。

細江それじゃ、プレッシャーがすごかったでしょうね。

戸本大緊張だったようですよ。その田中さんが最初に出て減点0、次の僕も減点なし。最後の大岩さんが、1本でもバーを落としたらメダルを逃すとなりました。これも減点なし。3人とも減点なしって、僕らだけだったんですよね。後で知ったんですが。もう、奇跡中の奇跡です。

細江トップバッターの田中さんから、戸本さんに順番が回ってきた時点でも重圧がすごかったでしょ? 次ぎにつなげなくちゃって。

戸本わりと冷静でしたね。この競技って団体ではあるんですが、サッカーやバレーボールと違って、個人競技のような面が強いので。僕自身が減点ゼロで帰ってくることが、チームに貢献することなんです。

細江ひとり、一人で挑みますもんね。結果は素晴らしいものでした。

戸本大岩さんがゴールを切った瞬間、涙が出て止まらなかった。長年、団体でのメダルが目標でしたから本当にうれしかったですね。

(構成:スポーツ報知 志賀浩子)

戸本 一真
1983年岐阜県出身。日本中央競馬会馬事公苑所属。パリ2024オリンピック銅メダリスト。馬術の総合馬術団体でのメダル獲得は92年ぶりの快挙。

吉田 俊介
1974年北海道出身。(有)サンデーレーシングの代表で、ノーザンファームの副代表。

細江 純子
1975年愛知県出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。

※この記事は 2024年10月18日 に公開されました。

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