ゲスト
ダノンデサイル号担当 原口 政也さん 栗東・安田翔吾厩舎

01. ゲート入りのときも、じっと立っているし、レース後も、けろりとしている。いい意味で、“鈍感力”のある馬です

ゲート入りのときも、じっと立っているし、レース後も、けろりとしている。いい意味で、“鈍感力”のある馬です
細江純子さんをインタビュアーに迎え、新しくスタートした『イケメンホースたち〜担当者が思う愛馬の素顔〜』。第1回のゲストは――日本ダービーの優勝馬、ダノンデサイルを担当する原口政也さん。いよいよ、ゲートが開きます!

第一印象は、おとなしくて、手のかからなそうな馬

細江日本ダービーの優勝、おめでとうございます。

原口ありがとうございます。

細江ダノンデサイルとの出会いから、順を追ってお伺いしたいのですが、まず、初めて見たときの印象はいかがでしたか。

原口おとなしくて、手の掛からなそうな馬だなぁというのは記憶にあるんですが、それ以外、印象に残っていることはほとんどないんですよね(苦笑)。

細江えっ!? ホントですか?

原口ゲート練習や、追い切りも普通やったし、4着に終わったデビュー戦のあとも、それほど強い印象はなくて……うるさいこともないし、普通に、やりやすい馬で、担当させてもらっている馬の一頭という感じでした。

細江変わったのは、初勝利となった2戦目、10月28日の京都3R2歳未勝利戦(芝1800m)あたりからですか。

原口そうですね。調教師のアイディアで、ハミをダブルジョイントから、トライアビットに替えて、そこらあたりから、徐々にという感じでした。

細江その2戦目ですが、4コーナーで一瞬、手応えが怪しくなったというか、ん!? というシーンがありました。

原口そう、でしたね。レース前は、バタバタすることもなく落ち着いていましたが、まだ本気で走っている感じではなかったですよね。

細江ところが、ノリさん(横山典弘)が、馬に寄せていくと、そこからまた伸びました。あのシーンは、原口さんの目にはどう映っていましたか。

原口ハミを取り直して、馬群の中でもう1ギア上げて、ゴールまで伸びる――これは、楽しみやなぁと思いましたね。

細江クラシックを意識できそうだと?

原口あの段階ではそこまではいきませんけど、これは、いいぞ! これやったら、楽しみや、という手応えは感じました。

細江そして迎えたのが、初重賞、京都2歳S(芝2000m)です。馬の状態に関しては、いかがでしたか。

原口調教に乗っている人は、「前回よりはいい」と言っていました。

細江具体的には、どのあたりが良くなっていたんでしょうか。

原口乗り役の指示に従うようになったと言っていましたね。気になっていた内にもたれる部分も、多少は改善していたと思います。

手応えを感じた京都2歳ステークス

細江スタートが少しゆっくりだったこともあり、ダノンデサイルにとっては、厳しいレースになりました。

原口あれはもう、展開のアヤで。スムーズなレースだったら、わからなかったと思いますよ。ただ、それも競馬というか、それが、競馬ですから(苦笑)。

細江スムーズさを欠いた中で最後は良い脚を見せての4着。レース後、ノリさんとは何か会話を交わしましたか。

原口ちょっとだけですけどね。「もったいなかったなぁ」とは言っていました。

細江ギアが入ってからは、最速の上がりタイムでしたが、レース後の息の入り方とかは、いかがでしたか。何か気がついたこととかありましたか。

原口そこまで疲れているという感じはなかったですね。まだ、遊びながら走っている感じだったし、負けはしましたけど、さらにクラスが上がっても、やれるかなぁという手応えのようなものは感じました。

細江見えて来たものがたくさんありましたか?

原口それは間違いないです。馬群の中でも、馬を上手くさばけたりとか、そういう部分で得るものはたくさんありました。

細江そして4戦目が、年明け、1月14日、中山を舞台にしたGIII京成杯(芝2000m)。ダノンデサイルにとっては、初めての中山競馬です。

原口馬運車の中でも、ついてからも、落ち着いていました。寂しがり屋なので、馬が通ると鳴いたりはしていましたけど、それ以外は、じーっとしていて、ふわふわした感じも、そわそわすることもなかったです。

細江環境の変化にも強い?

原口だと思います。あくまで、今のところは、ですけど(笑)。

細江環境が変わると食事を取らなくなったり、ちょっと難しい馬も出てきますが、そういう感じはまったくなかったですか。

原口なかったですね。レース経験を重ねていくことで、神経質になっていく馬もいますが、あの仔の場合は、まだ、そこまでわかっていないんじゃ無いかと思います。

細江いい意味での、“鈍感力”があるんでしょうね。

原口ほんと、そんな感じです。レース前も、“さぁ、競馬や!”という感じもなく、じーっと立っている感じでした。

細江ゲート裏の雰囲気は、どうでしたか。成長を感じたところとか、何かいつもとは違うぞ! と感じたようなところはありましたか?

原口いつもと、一緒ですね。輪乗りをすることもなく、後ろの方で一頭だけ、じーっと待っていました。

細江その落ち着きぶりは、すごいですね。

原口ノリさんも、まわらんでいいなら、それでいいという感じで。ビデオを見返したたら、一頭だけポツンと立っているのが映っていると思いますよ。

ボロをしながら走った京成杯

細江初めての競馬場。コーナーが4つあって、直線がやや短い中山のコース……克服しなければいけない課題が山積みでしたが、原口さんから見て、1番気にかかったのはどこですか。

原口外枠だったので、うまいことコーナーをまわって来られるかどうか、ですね。2走目、3走目は、わりかし大丈夫でしたけど、デビュー戦はちょっと外に膨らむところがあったので、そこは注意して見ていました。

細江4コーナーでちょっとヨレる感じになって、先頭と少し離れるシーンがありましたが、あそこは?

原口ここからどういう展開になるんだろうと思いながら見ていました。前の馬が逃げ残るのか? 後ろにいた本命馬がどこでエンジンをかけるのか? ダノンデサイルはどのくらい伸びてくれるのか? あの時点では、まったく分かりませんでしたから。

細江みんな、どうなるんだろうと思った次の瞬間、ダノンデサイルが坂上から、さらにいい脚で伸びてきました。

原口僕が思っていた中では、最高のカタチになりました。ただ……。

細江ただ、なんでじょう?

原口後で知ったことですが、向正面で、ボロをしながら走っていたんですよね(苦笑)。

細江そうだ! そう、でした(笑)。どうですかというのも変ですけど、ボロをしながらレースを走って、なおかつ重賞を勝った馬というのは――。

原口少なくとも、僕は聞いたことがないです(苦笑)。それがレースに影響があったかどうかは分からないですけど、大物感があるというか、ちょっと規格外の馬なのは、間違い無いと思います(笑)。

細江レース後、表情や息の入りは、いかがでしたか。

原口走り終えた後の興奮もなく、心臓がバクバクしたような感じもなく、ケロッとした顔で、お客さんの方を、じ〜〜〜〜〜〜っと、見ているような感じでした。

細江すごいですね。でも、この勝利で、クラシックへの手応えもある程度、感じることができたんじゃないですか。

原口あくまでチャレンジャーの立場ですが、面白い存在になるんじゃないかというそういう気持ちにはなりましたね。特に、同じコース、同じ距離で行われる皐月賞は、相手も強くなるけど、勝負になるんじゃないかという気持ちにはなっていました。

細江ところが、です。

原口そう。ところが、でした(苦笑)

細江皐月賞は、ゲート入り直前での競走除外。あれは、青天の霹靂でした。

原口僕も皆さんと同じです。ただ、皐月賞前から、爪をぶつける癖は出ていましたし、よぉく見ると、歩様が少しおかしいようにも見えましたし……。“ここまできて……”という気持ちはありましたけど、あそこはジョッキーが判断がすべきところですから、ノリさんの出した答えがすべてです。

(構成:工藤 晋)

細江 純子
1975年愛知県蒲郡出身。1996年JRA初の女性騎手としてデビュー。2000年日本人女性騎手として初の海外勝利(シンガポール)。2001年引退。引退後はホースコラボレーターとしてフジテレビ『みんなのKEIBA』関西テレビ『競馬BEAT』に出演。夕刊フジ・アサヒ芸能などにコラムを連載中。書籍は『ホソジュンのステッキなお話』文芸ポストでの短編小説『ストレイチャイルド』。

※この記事は 2024年9月7日 に公開されました。

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