海外だより

〝カーニバル競馬〟の時代

海外競馬にあって日本競馬にない、もしくはあっても別物のようにレベル差が異次元なものというと、映画「ベンハー」で有名になった二輪車(戦車)を引く繋駕(けいが)競走は日本で姿を消し、障害レースなんかも規模やレベルがまるで違います。海辺のリゾート地では砂浜コースを使ってレースが行われるかと思えば、冬のスイスのサンモリッツ湖畔は氷上競馬で盛り上がります。自然環境やお国柄の違いは多彩ですが、色々な国で多くの人々が様々に競馬を楽しんでいる光景が走馬灯のように駆け巡ります。それらの共通点は、たいがいは地域ごとの〝カーニバル(祭)〟の一環として、あるいはその形を模して行われることです。地域の人々の暮らしに欠かせない行事として時を経て回を重ね、その地域の伝統・風習として成熟していきます。

〝競馬発祥の地〟イギリスのレーシングカレンダーは、300年以上前に時のアン女王が開闢(かいびゃく)したアスコット競馬場を舞台に始まった世界最高のブランド競馬〝ロイヤルアスコット〟を代表格に、1年を通じて、こうした〝カーニバル競馬〟の集積と言って良いほどです。国王エドワード7世が愛した初夏の〝グロリアス・グッドウッド〟も有名です。コースをヨークに移して開催の〝イボア・フェスティバル〟は、レーティング世界一争いの常連インターナショナルSが看板ですが、G格付けのないイボアハンデも多数の強豪馬が参戦する高額賞金レースとして高い人気を誇っています。人々の暮らしに密着した楽しみとして競馬が支持されている光景が伝わってくるようです。日本では年に一度か二度の〝祭(カーニバル)〟の催事として競馬が行われるのは、相馬野馬追などに原型が残されていますが、近代競馬としては毎週末の楽しみとして持続可能な〝細く長い開催〟に徹してきました。海外のように1日に複数のG1を含む重賞レースが編成される〝カーニバル形式〟とは、ほぼ無縁に歴史を重ねてきました。どちらが優れているという問題ではありませんが、年に1度くらいは〝カーニバル競馬〟を堪能したいという気持ちはあります。

その〝代役〟を果たしているのが、JRAが取り組んでいる「海外馬券」かもしれません。いろんなレギュレーション(制約)があるので、そのままカーニバル気分満載というわけにはいきませんが、風情を味わうには十分でしょう。日本調教馬も強くなっていますが、海外調教馬のレベルも日進月歩です。今週末は中東カタールを舞台に「アミール・スウォード・フェスティバル」が開催されます。あいにく海外馬券は発売されないようですが、今月末のサウジカップデー、来月末のドバイワールドカップデーと世界が注目する〝カーニバル競馬〟の露払いとして見逃せない一番でしょう。カタールはもともと積極的に凱旋門賞をスポンサードして、現在の世界最高峰に君臨するブランド価値を築き上げてきた功労者です。着実に地力を強化しており、とくに今回は日本を筆頭にヨーロッパ・香港などパート1国から実績馬が参戦します。注目したいですね。

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