発走時刻1分前。
調教師。騎手。馬券を買う人。
馬主、実況アナウンサー。
そして、スターター。
様々な人の思惑、
推理、強い念が交差する時間。
当コラムは、
発走時刻1分前にまつわるコラムです。

第33回JRAスターターさま

JRAスターター(発走担当者)

スターター(発走担当者)の一番の関心は、「全出走馬の無事なスタート」です。それがある意味、我々にとってはゴールです。競走馬の中にはすべてが順調にいって、発走調教審査(いわゆるゲート試験)も問題なく、レース時もすんなりゲートに入ってスタートする馬もいますが、 問題を抱える馬も少なくありません。初出走時には問題が無くても、出走を重ねるにつれて競馬の大変さがわかってきたり、ゲートに対する恐怖心が出てきたりすることもあります。そういう馬たちがそれを克服して、また無事にスタートラインに立ち、無事にスタートを切ることができた時は、我々も嬉しいですし、とてもやり甲斐を感じます。

出走馬にとってのスタート、スターターにとってのゴール直前である「発走時刻1分前」は、それぞれの出走馬についてこれまでに収集した情報を基にシミュレーションを行い、枠入り補助具(長鞭、尾廻し、目隠しなど)の使用や緊急時の対応などについて、より良い判断を行うための最後の準備時間です。

情報収集は、それぞれの馬がトレセンに初めて入厩してきたときから始まります。すべての競走馬が通過しなければならないゲート試験合格までの過程、初出走時、競馬の大変さがわかってくる2、3走目からそれ以降の競馬、またその間にトレセンで行った発走練習にいたるまで、スターターは各馬の様子を細かく観察し、ゲートに向かう際やゲート内での癖(挙動)、どうすればゲートに入るのかなどをすべて記録に残しています。これらの情報が円滑で真正な発走を行うための我々にとっての大きな武器となります。

そして開催日、「発走時刻1分30秒前」には口取りの指示を出し、出走馬の様子の最終確認をしながら、「発走時刻1分前」を迎えます。

ここからは事前のシミュレーションを活かしながら、スターターにとってのゴールを目指しますが、馬も生き物、スタートへ至るまでに我々の想定を超えるような反応を示すこともあります。その際には「発走時刻1分前」からスパッと頭を切り替え、臨機応変に対応することで「全出走馬の無事なスタート」を目指します。

※この記事は 2024年5月3日 に公開されました。


×