開業4年目で日本ダービー4頭出しを成し遂げた確かな信念

満足せずに次はダービーに勝てるところまでいけるように
藤原今回は開業4年目の今年、日本ダービーに“4頭出し”で挑戦されました上原佑紀調教師にお話をうかがわせていただきます。厩舎でインタビューをさせていただいていますが、お召しになっているキャップの真ん中に描かれている「厩舎ロゴ」は、どうやってデザインされたのですか?
上原これは知人にデザインの仕事をしている人がいまして、その方に考えてもらいました。何個か候補を考えてもらって、その中から選びました。
藤原かっこいいですね!上原調教師のイニシャルですね。
上原そうです、イニシャルをちょっと馬っぽくしてもらいました。
藤原いいですね。厩舎の至るところにロゴが散りばめられていて、すごく素敵です。それではお話を伺っていきたいと思います。上原佑紀厩舎と言えば、やはり最近は日本ダービーに4頭出しで挑戦されたということで注目を集めたと思います。日本ダービーから数週間経った今、ダービーを振り返っていかがですか?
上原改めて4頭をダービーの舞台に連れて来られたということは、厩舎として取り組んできたことの結果の一つなので、チームとしても手応えをつかめました。まだ開業して4年目なので、みんなで開業してから積み重ねてきたものが結果につながったということでは、もちろん喜びはありましたが、ただ、反省点もありました。そこはまた自分たちのやり方をそれで満足せずに、次はダービーを勝てるところまでいけるようにブラッシュアップしていく感じでやっていきたいと思っています。ただ、今後に向けて、とてもいい経験になりましたし、すごく注目していただけたことはよかったです。
藤原私たちファンとしては、皐月賞を終えてダービーでは上原佑紀厩舎から3頭出しになるのではないかとザワザワして、そしてトライアルの青葉賞を終えて、もう1頭増えて「4頭出しか!」となったのですけど、自分の厩舎から皐月賞に3頭、またダービーでは4頭を送り出せることになった時の心境はいかがでしたか?
上原クラシックを目指していくなかでは、その一頭一頭をどのようにクラシックに乗せていけるかということを考えてやっていたので、何だかホッとしたというか、「ダービーに出られる」、「クラシックに乗せられた」という安堵感がありましたが、改めて振り返ると、とてもすごいことだなと思いますね。
藤原その時は意識してなかったというか、一頭一頭と真剣に向き合っているうちに、気づいたら…。
上原そうですね。みんな、それぞれ違う路線から違うローテーションでダービーにたどり着きましたので。使うレースなども、いろいろとオーナーサイドも含めて考えてやってきたことだったので、そこで結果が出て、ダービーまで行くことができてよかったです。
藤原どこかの時点で「あれ?4頭だ!すごい!」と、我に返るではないですけど、意識された時はありましたか?
上原皐月賞が終わった時点で、おそらくフォルテアンジェロやライヒスアドラーは賞金的にダービーにはちょっと足りないかな、ぎりぎりのところかな、と思っていたのですが、その2頭が皐月賞で掲示板(日本ダービーの優先出走権が与えられる5着以内)に来てくれて、もうグリーンエナジーは京成杯を勝っていて賞金がありましたので、そうやって気がついたのは皐月賞が終わってからでしょうか。フォルテアンジェロとライヒスアドラーもダービーへの切符をつかんでくれたんだなと思った時に、「ダービーに3頭で行けるな」と思いました。そして、さらにゴーイントゥスカイも青葉賞で頑張ってくれましたので、本当によかったと思います。
藤原そのダービーを戦い抜いた4頭にかけたい言葉って、それぞれありますか?
上原まずは「本当にうちの厩舎に来てくれてありがとう」という気持ちです。ダービーはお祭り的なところもありますが、そこまでしっかりと走り抜いて無事に4頭とも帰ってきてくれたので、「また秋に頑張りましょう」という気持ちですね。

やっぱり一頭一頭の個性を大事にするというところ
藤原日本ダービーは、厩舎を開業された時から勝ちたいレースに挙げられていた特別なレースだと思います。上原佑紀調教師のなかで特別なものになったきっかけはいかがだったのでしょうか?
上原月並みですけど、やっぱり日本のホースマンが一番目指すべきレースですし、クラシックのレースは全部がそうですが、馬にとっては一生に一度しかチャレンジできないレースなので、本当にその世代に生まれたサラブレッドのナンバーワンを決めるという意味で特別なものだと思います。やはりファンの方もすごく注目していて、当日の盛り上がりなどは他のレースとは全然違いますので、すごく特別なレースなのだなというので、一番分かりやすい目標として挙げさせていただいてきました。
藤原そんな特別なレースに4頭を出せたというのは、厩舎としての勢いというものも、すごく増した一年になったのではないかなと映るのですが、さらに厩舎が勢いに乗った要因など、変えたり工夫されたことなどはありましたか?
上原いや、そんなに変えたことはないです。どちらかと言うと、開業の時にこういう方針でやっていきたいと決めたことを、より突き詰めてきた結果だと思います。最初の開業3年の間は結果が出なくとも、やはり開業前にいろいろと自分の中でこういう風にやりたいというものがあって、いろいろと練ってスタートしたので、結果が出ても出なくても、まずはこのやり方を貫こうと思っていました。もちろん細かい修正点は多々ありますが、そのやってきたことが間違っていなかったと思います。例えばレースで言えば、不可解な負けが減ってきたと感じます。そこは大きいです。私は自分の中で、その勝因や敗因をとても分析していますので、その次に向けてどのようにパフォーマンスを上げていけるか、負けてしまったら何で負けたのか、ということをスタッフのみんなも含めて考えて、記録して忘れないように、冷静に前へ進むための復習として積み重ねてきています。敗因が特定できていた場合は、もちろん前と同じ敗因をつくらないように取り組んでいきますので、そういうことを突き詰めてやってきた結果ではないかと思っています。
藤原やってきたことが実った一年ということでしょうか。
上原そうですね。やはりスタッフのみんなも開業の時に、みんな違う厩舎から来て、前の厩舎とは全然違うやり方だったと思うので最初は戸惑ったと思います。だんだん私の考えなどを理解してくれて、浸透していったということも大きいのかなと思います。
藤原開業前に掲げられた、こういう厩舎にしていきたい、こうやっていきたい、というお考えは、お話できる範囲でどういう方針だったのでしょうか。
上原ざっくりとした言い方になりますが、やっぱり一頭一頭の個性を大事にするというところですね。

シンプルに毎日よく馬を見る、見てもらう、ということ
藤原「一頭一頭の変化にちゃんと気づけるように」ということを大事にされているというお話は他のインタビュー記事で拝見したのですが、具体的にその変化に気づけるようにするために工夫していることってありますか?
上原それはやはり、シンプルに毎日よく馬を見る、見てもらう、ということです。それは当然、どこか馬に痛いところがあることなどはもちろん、食欲だったり、どれくらい水を飲んでいるかなど、そういう馬のコンディションの変化はすごくいろんなところで小さい変化が“サイン”として出るものなので、そういう点を見逃さないようにするところだと思います。やはりオーバーワークということに関しても、馬のコンディションが良くない時に強い調教をしてしまうと、一気にコンディションが下がったりしてしまうので、そこは一番気を付けています。もちろん逆に、全然余裕があるのに負荷をかけなかった場合には、当然アスリートとして鍛えられないわけですが、調教に関してはオーバーワークが一番怖いと思っていますので、それを避けるために日々の細かい変化をみんなで見ています。それも担当者だけではなくて、攻め専の助手という持ち乗りとは別の助手、あと私を含めた3者でトリプルチェックをして、それにプラスして獣医さんや装蹄師さんもいますので、そういう見逃しがないように万全を期してはいます。その中で、その調教メニューを一頭一頭にあわせて考えております。それはレース選択やジョッキーの起用なども含めてになります。
藤原すごいですね。トリプルチェック、もしくは4人でのチェックもあるくらいなのですね。たくさんの馬を管理されているなかで、上原佑紀調教師ご自身もちゃんと一頭一頭を見ながらやっていらっしゃるのですね。
上原はい、いつもあそこに座って見ています。
藤原厩舎の真ん中に丸テーブルと椅子が置いてありますが、あれって常に置いてあるのですか?
上原常に置いてあります。
藤原へー。あそこに座りながらですか?
上原午後も全頭の歩様をチェックするので、あそこで私は見ています。
藤原本当にプールの監視員みたいに(笑)。
上原本当にそうですね(笑)。
藤原きっとそういうところが上原佑紀厩舎の強さの秘訣でもあるのかなと思います。
上原そうですね。やっぱり能力を引き出すというところもそうですが、無事にクラシックまでたどり着くということは簡単ではないと思います。そして本当に無事にダービーにまでたどり着けるということは、ものすごく簡単なことではないので、これらのことはすごく気を付けておりますし、スタッフの人にも気を付けてもらっているところです。

武豊騎手は我々の業界にとって宝のような人
藤原宝塚記念を終えて上半期の競馬が締めくくられたなかで、ここまでは日本ダービーのお話を中心に伺いましたが、この上半期に何か他に印象的だった出来事などはありますか?
上原印象的だった出来事ですか。やはり武豊さんで重賞を勝てたことが嬉しかったですね。
藤原上原佑紀調教師にとって、武豊さんは憧れの存在なのでしょうか。
上原もちろん憧れですね。僕が生まれる前からジョッキーをやっていらっしゃいますし。本当にこの競馬というものを社会的に一段階引き上げてくださったというか、競馬のイメージを良くしてくださった方で、我々の業界にとって宝のような人ですので。開業1、2年目の頃は、恐れ多くて依頼ができなかったのですが、今年から豊さんが「1回も依頼ないな」みたいな感じで一度言ってくださったので、そこからちょっとずつ、ようやく依頼させていただくようになりました。
藤原そうなのですね。今年になって初めて騎乗依頼をして、もうその武豊さんとのコンビで重賞を勝つことができたというのは、すごいご縁ですね。その青葉賞を勝った後は、武豊さんとはどんな言葉をかわされたのですか。
上原「まだ結構大きい馬で不器用だけど、能力はあるよね」という感じで言ってくださいました。それで青葉賞を勝った時に、もうすぐにダービーの騎乗依頼もしたのですが、乗るという返事をすぐにくださったので、すごくうれしかったです。実は武豊展(「武豊 デビュー40年~前人未踏の記録~」)にも行きました(笑)。
藤原武豊展に行かれたんですか?どうでしたか!?
上原よかったですね。歴史を感じました。まさしく“生き字引”みたいな感じだなと思いました。
藤原武豊展に行かれたことは、ご本人にもお伝えしたのですか?
上原はい、お伝えしました。それでその日に食事へご一緒しました。
藤原そうなんですか!さらに武豊さんとの思い出もすごく深まった上半期という感じになりましたね。
上原武豊さんでダービーに挑戦できるということは、私にとっては非現実的なことだったので、うれしかったですね。最後の直線でも、「うわ!来た!」と興奮しました。すごくいい思い出になりました。
藤原そうですよね!ちなみに私は素人なので、ちょっと変な質問になってしまうのかもしれないですけど、例えばダービーには4頭が出ていたなかで、レースをご覧になる時に4頭を満遍なく見ていくコツとかってあったりするのですか?
上原コツですか。ちょっと“引き”で全体を俯瞰して見るみたいな感じでしょうか。
藤原“引き”で、とおっしゃいましたが、実際にレースはどのようにご覧になっているんですか?
上原それぞれ肉眼だったり双眼鏡だったり、モニターで見ることもあります。その時はモニターを見たり、双眼鏡を見たりという感じでした。
藤原そうなのですね。では一歩引いて、全体像を常にこう把握して…。
上原そうですね。でもダービーはレースが終わってからじっくりと見ようと思っていましたので、そこまで細かくはその時は見てはいませんでした。

構成:スポーツ報知 坂本達洋
Photograher:山口比佐夫

藤原 菜々花ラジオNIKKEIのアナウンサー。担当番組:「中央競馬実況中継」「ななかもしか発見伝!」「こだわり羽生結弦セットリスト」等