より馬ファーストになればもっと日本の競馬は良くなっていくと思います。

もともとはファン目線
藤原先生は大学を卒業されてから競馬の世界に入ったんですよね。
国枝はい。友達が、「菊花賞」だ「ダービー」だって騒いでいたんですよ。それに乗って見てみたら面白くて。競馬ってスゴイな~と思ったんです。当時は杉本清さんが実況で盛り上げて、志摩直人(詩人、競馬評論家)とか、寺山修司(作家、競馬関連の作品多数)とかが、競馬って面白いよって、アピールをしていました。
藤原それで、競馬に興味を持たれたんですね。
国枝そうなんです。それで、大学は獣医学部に入って、馬術部に入部しました。就職先を考えていた頃に美浦にトレーニングセンターができて、競馬の世界に入れたのは良かったですね。
藤原テレビで見た憧れの世界に踏み込んだんですね。
国枝はい。だから、もともとはファン目線なんです。みんな、そうでしょうけどね。ゲームの『ダビスタ』とかに影響されて、競馬の世界を目指した人はたくさんいるでしょ?
藤原私はアーモンドアイからなんです。強いだけじゃなく顔も可愛くて。
国枝名前の通り、キレイで力強い目をしていましたね。ただ、あそこまで行くと、可愛いというより、スゴイな~という感じです。

アーモンドアイのすごさの秘密
藤原すごさの秘密は、どこにあったんでしょう?
国枝身体能力の高さですね。筋肉が柔らかくて、動きもリズミカルで弾む感じ。心肺機能もメンタルもトータルでレベルが高い。牝馬らしからぬ力強さがあるんです。
藤原アーモンドアイはレースに向けて、自分で飼い葉の量を調整すると聞きましたが?
国枝競馬を使ってくると、だんだんルーティンを覚えるんでしょうね。追い切りをすると、「そろそろ競馬かな」とかスケジュールが分かってくる。実際に競馬場に行くと、きょうはレースだと気づいて飼い葉に口をつけない馬はたくさんいます。まあ、まれにガッついちゃう馬もいますけど(笑)。
藤原実戦が近づいて緊張するってことでしょうか?
国枝そうそう。人間と同じです。緊張の度が過ぎると、まったく食べなくなったりします。特に牝馬に多いので、そこは体力維持の面から難しいところです。
藤原たしかに、心配になります。
国枝それに、日本の競馬の場合、競馬場の待機馬房に着いて、装鞍所へ行きます。そこからパドックに入って、長い時間をファンの前で歩く。そこからレースに向かうんですから、かなりのメンタルの強さが必要になりますよね。
藤原人前に出るし、緊張しますよね。
国枝そもそも、競馬自体が馬にとって、さほど楽しくはないはずです。それを、どう走る気にさせるかも、この仕事の難しいところなんですよ。

変わってきた競馬の世界
藤原レースでライバルたちと競い合うって厳しいですもんね。
国枝馬自身の能力が高くて勝つ場合もありますが、たいていは我々の方で、いかに馬をリラックスさせてレースを迎えるか考える必要があります。だから、普段の厩舎の中の雰囲気や、馬への接し方などは、ゆったりとした方がいいのではと思っています。
藤原環境作りが大事なんですね。
国枝そうそう。高校野球とか、ひと昔前は根性論だったでしょ?「歯を食いしばって頑張りなさい」みたいな。でも、それって、やっている選手自身は楽しくないし、常に緊張を強いられていますよね。競馬も以前は、そういう雰囲気がありました。
藤原それが、だんだん変わっていったんですね。
国枝個々の自由度は高まったと感じます。もちろん、昔やっていたことの全部が悪いわけじゃないですよ。
藤原でも、どの業界でも楽しく仕事をするって大切なことだと思います。
国枝よく、引退した藤沢和雄調教師が言っていたでしょ。「Happy People Make Happy Horse」って。藤さん(藤沢元調教師)はずっとイギリスにいたから、その感覚で言うことが多いんですよね。私もイギリスに行った時に、人にも馬にも余裕を感じました。「この馬、蹴ってきそう」って雰囲気を感じたことありませんでしたから。

日本と海外の違い
藤原ゆとりのある環境だから、馬もピリピリしていないんですね。その他に、日本と海外の違いを感じたことはありますか?
国枝歯医者さんですね。海外には馬のデンティスト(歯医者さん)っていたんですけど、ひと昔前の日本にはいなかったし、馬の口の中は重要視されていませんでした。本来は歯が伸びてきたらキチンと手入れをしてあげないと。歯が尖ったりして痛みになることがあるから。そうすることで、飼い葉がしっかり食べられて、ハミ受けも良くなるんです。メンタルが弱いから飼い葉が食べられないんじゃないし、コントロールが利かないのではありません。
藤原原因を取り除いてあげれば変わるということですね。
国枝そうです。それができて、初めて馬に次のステージに行くための要求をする。その方が、いいですよね。そういう意味では、今の日本競馬は忙しいかもしれません。厩舎側としては馬の健康状態を整えたうえで、適性に合ったレースを使いたいですが、なかなか難しい現状ですよね。たとえば、抽選漏れや除外など、予定通りにいかないことが多々あります。
藤原楽しみにしていた馬が出られないとなったら、馬主さんもファンもガッカリ…ということもあるかもしれません。
国枝そうですよね。競馬って幼稚園の運動会と同じだと思うんです。馬主さんにとって、可愛い我が子が競馬で走るんです。それが、しっかり追い切って抽選漏れって。“究極の仕上げ”ってよく言いますが、それって翌週まで持ちますかね。
藤原1週間予定がスライドするリスクは大きいですよね。
国枝普通の会社に置き換えたら、「これが自信の商品です」ってお客様に提供するところを、抽選漏れになるかもしれないから“そこそこの仕上げで出します”ってことになっちゃう。厩務員さんや騎手、馬を作り上げる人たちの仕事は、そんな安直にできるものではないんです。
藤原それでも、毎週末は競馬です。
国枝そうそう。そのレーススケジュールに馬を合わせていかなくちゃならない。幸いなことに今の日本競馬は馬券は売れているし、海外に比べて恵まれた環境にあります。今のうちに、今後のトラブルをなくすために、ルール作りなどを考えていく時期なのではないでしょうか。より馬ファーストになれば、もっと日本の競馬は良くなっていくと思います。

構成:スポーツ報知 志賀浩子
Photograher:山口比佐夫
広報担当:井手尾

藤原 菜々花ラジオNIKKEIのアナウンサー。担当番組:「中央競馬実況中継」「ななかもしか発見伝!」「こだわり羽生結弦セットリスト」等