国枝栄調教師

より馬ファーストになればもっと日本の競馬は良くなっていくと思います。

ゲストをお迎えしてお届けする「藤原菜々花のWe♡horses」。今回のゲストは国枝栄調教師です。1990年に厩舎を開業し、アパパネ号、アーモンドアイ号の牝馬三冠馬をはじめ、多くの名馬を育てた国枝調教師。今年3月に定年を迎えます。前編では、競馬の世界に入るきっかけや今の日本の競馬についてお話を伺いました。

もともとはファン目線

藤原先生は大学を卒業されてから競馬の世界に入ったんですよね。

国枝はい。友達が、「菊花賞」だ「ダービー」だって騒いでいたんですよ。それに乗って見てみたら面白くて。競馬ってスゴイな~と思ったんです。当時は杉本清さんが実況で盛り上げて、志摩直人(詩人、競馬評論家)とか、寺山修司(作家、競馬関連の作品多数)とかが、競馬って面白いよって、アピールをしていました。

藤原それで、競馬に興味を持たれたんですね。

国枝そうなんです。それで、大学は獣医学部に入って、馬術部に入部しました。就職先を考えていた頃に美浦にトレーニングセンターができて、競馬の世界に入れたのは良かったですね。

藤原テレビで見た憧れの世界に踏み込んだんですね。

国枝はい。だから、もともとはファン目線なんです。みんな、そうでしょうけどね。ゲームの『ダビスタ』とかに影響されて、競馬の世界を目指した人はたくさんいるでしょ?

藤原私はアーモンドアイからなんです。強いだけじゃなく顔も可愛くて。

国枝名前の通り、キレイで力強い目をしていましたね。ただ、あそこまで行くと、可愛いというより、スゴイな~という感じです。

アーモンドアイのすごさの秘密

藤原すごさの秘密は、どこにあったんでしょう?

国枝身体能力の高さですね。筋肉が柔らかくて、動きもリズミカルで弾む感じ。心肺機能もメンタルもトータルでレベルが高い。牝馬らしからぬ力強さがあるんです。

藤原アーモンドアイはレースに向けて、自分で飼い葉の量を調整すると聞きましたが?

国枝競馬を使ってくると、だんだんルーティンを覚えるんでしょうね。追い切りをすると、「そろそろ競馬かな」とかスケジュールが分かってくる。実際に競馬場に行くと、きょうはレースだと気づいて飼い葉に口をつけない馬はたくさんいます。まあ、まれにガッついちゃう馬もいますけど(笑)。

藤原実戦が近づいて緊張するってことでしょうか?

国枝そうそう。人間と同じです。緊張の度が過ぎると、まったく食べなくなったりします。特に牝馬に多いので、そこは体力維持の面から難しいところです。

藤原たしかに、心配になります。

国枝それに、日本の競馬の場合、競馬場の待機馬房に着いて、装鞍所へ行きます。そこからパドックに入って、長い時間をファンの前で歩く。そこからレースに向かうんですから、かなりのメンタルの強さが必要になりますよね。

藤原人前に出るし、緊張しますよね。

国枝そもそも、競馬自体が馬にとって、さほど楽しくはないはずです。それを、どう走る気にさせるかも、この仕事の難しいところなんですよ。

変わってきた競馬の世界

藤原レースでライバルたちと競い合うって厳しいですもんね。

国枝馬自身の能力が高くて勝つ場合もありますが、たいていは我々の方で、いかに馬をリラックスさせてレースを迎えるか考える必要があります。だから、普段の厩舎の中の雰囲気や、馬への接し方などは、ゆったりとした方がいいのではと思っています。

藤原環境作りが大事なんですね。

国枝そうそう。高校野球とか、ひと昔前は根性論だったでしょ?「歯を食いしばって頑張りなさい」みたいな。でも、それって、やっている選手自身は楽しくないし、常に緊張を強いられていますよね。競馬も以前は、そういう雰囲気がありました。

藤原それが、だんだん変わっていったんですね。

国枝個々の自由度は高まったと感じます。もちろん、昔やっていたことの全部が悪いわけじゃないですよ。

藤原でも、どの業界でも楽しく仕事をするって大切なことだと思います。

国枝よく、引退した藤沢和雄調教師が言っていたでしょ。「Happy People Make Happy Horse」って。藤さん(藤沢元調教師)はずっとイギリスにいたから、その感覚で言うことが多いんですよね。私もイギリスに行った時に、人にも馬にも余裕を感じました。「この馬、蹴ってきそう」って雰囲気を感じたことありませんでしたから。

日本と海外の違い

藤原ゆとりのある環境だから、馬もピリピリしていないんですね。その他に、日本と海外の違いを感じたことはありますか?

国枝歯医者さんですね。海外には馬のデンティスト(歯医者さん)っていたんですけど、ひと昔前の日本にはいなかったし、馬の口の中は重要視されていませんでした。本来は歯が伸びてきたらキチンと手入れをしてあげないと。歯が尖ったりして痛みになることがあるから。そうすることで、飼い葉がしっかり食べられて、ハミ受けも良くなるんです。メンタルが弱いから飼い葉が食べられないんじゃないし、コントロールが利かないのではありません。

藤原原因を取り除いてあげれば変わるということですね。

国枝そうです。それができて、初めて馬に次のステージに行くための要求をする。その方が、いいですよね。そういう意味では、今の日本競馬は忙しいかもしれません。厩舎側としては馬の健康状態を整えたうえで、適性に合ったレースを使いたいですが、なかなか難しい現状ですよね。たとえば、抽選漏れや除外など、予定通りにいかないことが多々あります。

藤原楽しみにしていた馬が出られないとなったら、馬主さんもファンもガッカリ…ということもあるかもしれません。

国枝そうですよね。競馬って幼稚園の運動会と同じだと思うんです。馬主さんにとって、可愛い我が子が競馬で走るんです。それが、しっかり追い切って抽選漏れって。“究極の仕上げ”ってよく言いますが、それって翌週まで持ちますかね。

藤原1週間予定がスライドするリスクは大きいですよね。

国枝普通の会社に置き換えたら、「これが自信の商品です」ってお客様に提供するところを、抽選漏れになるかもしれないから“そこそこの仕上げで出します”ってことになっちゃう。厩務員さんや騎手、馬を作り上げる人たちの仕事は、そんな安直にできるものではないんです。

藤原それでも、毎週末は競馬です。

国枝そうそう。そのレーススケジュールに馬を合わせていかなくちゃならない。幸いなことに今の日本競馬は馬券は売れているし、海外に比べて恵まれた環境にあります。今のうちに、今後のトラブルをなくすために、ルール作りなどを考えていく時期なのではないでしょうか。より馬ファーストになれば、もっと日本の競馬は良くなっていくと思います。

構成:スポーツ報知 志賀浩子
Photograher:山口比佐夫
広報担当:井手尾

藤原 菜々花ラジオNIKKEIのアナウンサー。担当番組:「中央競馬実況中継」「ななかもしか発見伝!」「こだわり羽生結弦セットリスト」等

※この記事は 2026年2月23日 に公開されました。

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