ジョッキー、調教師、どちらの立場でも、こんなに夢があって刺激的な仕事はないと思っています。

競馬の世界を目指したきっかけ
藤原先生が競馬の世界を目指したきっかけは?
田中2000年のエアシャカールが勝った皐月賞を見たことです。テレビで観戦したんですが、その時は面白そうな世界だなという感じ。で、その年のダービーも兄と見たんですがシャカールは2着で、勝ったのはアグネスフライト。あのレースを見てゾクゾクしたんです。
藤原それで、競馬の仕事に就こうと?でも、競馬と関係のあるご家族ではなかったと伺った事があります。
田中はい。だから、武豊さんは分かるけど、「ジョッキーって競走馬に乗る人だよね?」というレベルでした。当時はスマホなんてないから、調べるのも大変。9月の進路相談の時に気づいたんですが、すでに、その年の競馬学校の願書は締め切られていました。
藤原その後、22期生とし競馬学校の騎手課程に合格なさったんですね。騎手時代はクィーンスプマンテでエリザベス女王杯を制したほか、フランスに武者修行に行かれたり経験を積んで、2017年に調教師試験に合格。翌年、33歳で厩舎を開業なさいました。
田中よく、「早くに調教師になったんですね」と言われるんですが、騎手って一瞬での判断が求められる仕事なんです。私の場合、考えて考えてというタイプなので、騎手は向かなかったかも…と。
藤原重賞を制覇なさった実績もありますが、ご自身ではそう感じることがあるんですか。意外です。調教師となってからはいかがですか?
田中自分一人で厩舎経営はできません。自分もスタッフの一員として頑張ってきました。今もその気持ちはありますが、ここ1、2年は今後を考えての厩舎の組織作りをしていかないと思っています。
藤原それは、会社のような組織ということですか?
田中そうです。すでに、厩舎内に管理職を置いて、それぞれのスタッフが動く形を執っています。私より優れたアイディアを出せるスタッフがたくさんいるので、その考えを取り入れながら、トップダウンにならないようにしたいなと。馬の采配や担当者の割り振りなど、決めることが10あるなら、2割ほど私の意見が取り入れられればいいというイメージでいます。

座右の銘は「微差が大差」
藤原これまでの厩舎経営で、あまり見たことのない形です。この形態で運営するには、まずスタッフさんたちに“田中イズム”を浸透させる必要があると思いますが?例えば、スタッフさんたちによくお話する、座右の銘のような言葉はありますか?
田中たくさんあるんですが…まずは「微差が大差」です。もう、何度話したか分からないほどですね。亡くなられた岡田繁幸さんが、よくおっしゃっていた言葉です。
藤原ビッグレッドファームの“総帥”ですね。
田中競馬は人間の100m走より、かなり長い距離を走りますよね。2000mって2kmですから、ハナ差なんて、たいした差じゃないんです。でも、ほんの数cm、ハナ差後からゴールに入ったら“負け”です。
藤原たかが数cm、されど数cmですよね。それで、勝敗が決まってしまう…。
田中;そうですよね。でも、数cmの差なら、管理する側の努力で、いくらでも埋められると思っています。もちろん、レモンポップのチャンピオンズCのように、ハナ差で勝つこともあります。あの勝利は力の衰えが見えていたところを、みんなでディスカッションして取り組んできたことが実った瞬間だったんです。藤原まぐれで、つかんだ勝利ではないということですね。
田中はい。そういう、必然の勝利を目指しています。

厩舎作りで大事にしていること
藤原ほかに、先生が大事にしている言葉はありますか?
田中「現状維持は衰退の始まり」です。厩舎を開業してから波がありました。そういう時こそ、頑固になりがちで、現状維持でいいと思ってしまいがちです。でも、常にトライ・アンド・エラーを繰り返し、なぜ失敗したのか答えを探ることが大事なんですよね。だから、今がいい時だからと、「慢心」もしないように気をつけています。
藤原慢心せず、常に挑戦、失敗、改善を繰り返すんですね。
田中そのために、「他責しない」という話もスタッフによくしています。馬は話せないですから、負けた理由を馬のせいにするのは簡単です。ほかにも、「ジョッキーのせいだ」とか、責任転嫁の方法はいくらでもある。でも、それって自分たち厩舎の仕事の価値を落としていると思うんです。
藤原たしかに、そうですね。
田中自分たちの仕事の、どこが甘かったのか、何ができたのか。そう自責するように気をつけていく。だいぶ、この考え方もスタッフに浸透してきたと思っています。
藤原革新的な厩舎作りをしていらっしゃいますが、開業当初からなんですか?
田中いえ、開業当時と今では、理想の調教師像は違います。最初はスタッフと一緒に、私も走っている感じでした。
藤原そこから、厩舎作りを変えていく転機があったんですか?
田中開業して4年目ですね。18勝と成績が落ちました。その時、スタッフの子に言われたんです。「先生がやりたいなら、そうすれば」って。その言葉で我に返りました。自分勝手に突っ走っていたんだなって。そこから、一歩引いてみたというか、引いてみるためにも厩舎の組織作りを始めたんです。
藤原組織作りが進んでいる手応えはありますか?
田中まだまだですが、少しずつ実ってきていると思っています。私にとってレースは、これまでやってきたことの答え合わせの場なんです。だから、声を上げて応援することは、あまりありませんし、ドキドキワクワクという感覚もないんです。偶然の負けはない、必然の負けだと思っていますし、偶然の勝ちを必然の勝ちにしていかないとと思っていますから。勝負において必然をつくるためのクオリティーは、もっと上げていけます。一歩、一歩、そこを目指して進んでいけているんじゃないでしょうか。
藤原常に冷静に判断していらっしゃるんですね。
田中たまに、「勝ったんだから、もう少し喜んだら?」と言われることはありますけどね(笑)。

目標は海外G1制覇
藤原毎日、ご多忙だと思いますが、ストレス解消というか、息抜きはなさっているんですか?
田中たまに温泉に行ったりしますよ。というか、根本的に馬が好きなんでストレスはあまりないんです。馬、カワイイですから。調教師の私が馬と戯れて至福の時間が過ごせるのは、スタッフがしっかり仕事をしてくれているおかげです。スタッフが生き生き仕事をして、結果が出て、また仕事が楽しくなる!とつながっていくといいですよね。そうなると、私もさらに馬と戯れられますし。
藤原馬との時間が、一番のリフレッシュなんですね。先生から見て、競馬にはどんな魅力がありますか?
田中まずエンタメとしてワクワクしますよね。私も“ファン”としてブリーダーズCとか「今年はどんなレースかな、早く見たいな」と思います。一度、興味を持つと、血統や騎手に関することなど、様々なファクターが絡んでくるスポーツで、その奥深さが面白くなってきます。もちろん、ギャンブルとしての側面もあるので、それはそれで楽しんでいただける。
藤原いろいろな楽しみ方があるんですね。
田中その魅力を知って、この世界を目指す人が増えてくれるといいですよね。どこに将来の道を決める、きっかけがあるかわからない。私自身は兄とテレビで競馬を見たことでした。最近はゲームの『ウマ娘』や、テレビドラマの『ザ・ロイヤルファミリー』など、これまでと違った層の方たちに競馬を知ってもらう機会がありました。その中で、自分も競馬の魅力を伝えることに、少しでも力になれればと思います。
藤原先生にとって競馬のお仕事は魅力的ですか?
田中もちろんです。私自身、20年ほど競馬界でキャリアを積んできました。ジョッキー、調教師、どちらの立場でも、こんなに夢があって刺激的な仕事はないと思っています。
藤原最後に、先生ご自身の目標を教えていただけますか?
田中凱旋門賞への思いは常にありますが、直近の目標は海外G1制覇です。国内G1を制覇でき、海外重賞も勝たせていただいたことで、現実的なものとして見えてきましたので、そこを目標に頑張ります。

構成:スポーツ報知 志賀浩子
Photograher:山口比佐夫
広報担当:井手尾

藤原 菜々花ラジオNIKKEIのアナウンサー。担当番組:「中央競馬実況中継」「ななかもしか発見伝!」「こだわり羽生結弦セットリスト」等