ウイニングランで大観衆が待つスタンドに帰っていく。ジョッキーにしか味わえないもので、すごく幸せだなと思います。

競馬は“ご縁”の世界
藤原競馬は“ご縁”を強く感じる世界ですよね。
武“ご縁”ばかりと言ってもいい世界です。直近ならメイショウタバルの宝塚記念制覇ですね。まずメイショウの故松本好雄オーナーは父の大親友です。タバルの故郷、三嶋牧場に父が一緒に行ったのが、オーナーと牧場さんとの縁になったんです。父の葬儀では故松本オーナーが弔辞を読んでくださいました。ちなみに、オーナーの奥さんと、うちの母、僕とオーナーの息子さんと同年齢です。
藤原なかなか、ないご縁ですね。
武そうですよね。子供の頃からのおつきあいです。それは、石橋守調教師もですね。僕の兄の同級生なんですよ。だから、兄同然の存在です。ほんと、子供の頃は…愛のあるイジリを受けてこき使われました(笑)。競馬学校では僕が1年生の時に、石橋さんは3年生だったので心強かったのを覚えています。
藤原それは、デビューしてからもですか?
武はい。父の存在もあって、僕はデビュー前から注目されていましたし、自分で言うのもなんですが割と早くから活躍できました。それに、騎手同士ですから勝ったり、負けたりありますよね。それでも、ずっと変わらず接してくれました。一番身近で、何でも言える存在です。
藤原では、メイショウサムソンで石橋さんが日本ダービーを勝った時は?
武うれしかったですね。自分が負けても、こんなにうれしいダービーがあるんだと思いました。石橋さんが調教師に転身して、「一緒に重賞を勝ちたいね」と話していたんです。それが実現しました。タバルはオーナーも牧場さんも、調教師さんも、すっと一緒にやってきたチームでしたから、改めて“ご縁”を感じた一戦でした。

ドウデュースとの“ご縁”
藤原ドウデュースも“ご縁”ですか?
武松島正昭オーナーとは、もともと友達だったんです。ドウデュースのデビュー戦に乗った時、すごく競馬が上手だなと感じました。あの馬が現役の間は、毎日が楽しかったですね。次はどのレースだろうとか、常に考えていました。
藤原この間、ドウデュースに会いに行かれたんですよね?
武社台スタリオンステーションに行ってきました。みんなに「ドウデュースが僕のことを覚えていたか」って、すごく聞かれたんです。会った時に、放牧中にピタッと止まって、僕の方を見ていたとかも言われましたね。
藤原ということは!覚えているんですね?
武いや~、どうでしょう(笑)。僕の方は、いろいろと思い出しましたけどね。ダービーを勝って、年度代表馬にもなって…感慨深いですよね。引退した今になって、すごい馬だったなと改めて感じています。ドウデュースといえば、この前エスコンフィールドに行った時に競走馬のぬいぐるみを売ってる場所があって、それで立ち寄ってみたんです。帽子被ってたから店員さんは僕って気付いてなかったみたいなんですけ ど、『最近はどの馬が1番売れてますか?』って聞いたら、店員さん『最近はドウデュースですね!』って(笑)。
藤原それは嬉しいですね!
武ちょっと、ほっとしました(笑)。
藤原店員さんもまさか武豊さんだとは思ってなかったでしょうね(笑)。

騎手とはどんな仕事?
藤原ほかにも、衝撃を受けた馬はいますか?
武どの馬にも個性があるので難しいですね。例えばディープインパクトは乗るたびに、スゴイ馬だなと感じましたし、サイレンススズカも僕の想像を越える走りをしてくれました。ドウデュースもそうです。天皇賞・秋で上がり3ハロン・32秒5を出す馬がいるなんて、考えもしなかった。そういう馬に出会うたびに、人間がどんな馬か決めつけちゃいけないなと思います。
藤原武さんにとって、騎手とはどんな仕事ですか?
武馬の個性をつかんで、いい面を引き出してあげることです。そのために、どんな乗り方をするかを、一生懸命に考えます。できなかった時は、本当に申し訳なくなりますね。
藤原でも、レースの展開を予測して作戦を組み立てるって、すごく難しいことだと思うんですが?
武その作戦が正しいのかも分かりませんしね。バーンとゲートが開いたら、天皇賞・秋なら約2分後には結果が出ています。ゲート内で横を見ている間にゲートが開いちゃっても、「ちょっと待って~」って言えない世界ですから。
藤原たしかに、もう1回はないですもんね。
武そうなんです。でも、それが競馬の面白いところなんですけどね。ゲートが開いたら、前に進むしかないんです。
藤原今でもレース前に緊張することはありますか?
武さすがに、馬に乗ってはないですね。人前で話しをする方が緊張します。
藤原そうなんですか?いつも、軽快にジョークを飛ばしてらっしゃるイメージです。例えば、2月のクイーン賞をオーサムリザルトで制した時の「寒い中、たくさん応援にきていただき、まさにオー“寒(さむ)”リザルトでしたけど」とか。
武まあ、関西のオッサンなんですよ(笑)。シビアな世界だし、多少のユーモアがあった方がいいかな~とは思っています。シランケドとか、面白い馬名の馬もいますしね。最近は実況の方も競走馬の血統とかジョッキーの情報とかをよく言ってくれて本当にそういう所がいいなぁって思ってます。
藤原そういっていただきありがとうございます!
武シランケド(笑)。
一同(爆笑)。

本当にジョッキーってすごい職業
藤原武さんの生のギャグを浴びてものすごく幸せです(笑)。改めて、シビアだけど、ワクワク、ドキドキするし。競馬って素敵ですね。
武そうですね!騎手の特権というか、すごくいいなと思うのは、やっぱり競馬ってね、10万人の方に来ていただいて、大歓声の中で、ゴールの瞬間を一緒に馬といれますからね。先頭でゴールをきって勝ったジョッキーだけが味わえる。僕はそれが騎手 の一番素晴らしい瞬間だと思います。ダービーとかジャパンカップとか有馬記念とかで勝った馬の背中にいるチャンスがあるんですよ。ジョッキーだけに許された世界ですね。誰も見ることができない景色を、ジョッキーはウイニングランで、10万人の大観衆が待っているスタンドに向かって帰っていく。それはジョッキーにしか味わえないものです。そこはすごく幸せだなと思います。凄くいい仕事をさせてもらってるなと思うし、騎手しか味わえないこと、あと勝たなければ見れない景色です。
藤原改めて、勝利騎手だけが見る事が許される。その景色って素晴らしい世界なんでしょうね。すごく感動しました。武豊騎手が改めて話してくださったからこそ、その景色の重みというものを感じました。本当にジョッキーってすごい職業です。
武こういう話を、若い騎手にどんどんするようにしています。騎乗技術がどうこうよりも、ダービーで先頭でゴールした瞬間とか、ウイニングランの時とかすごいよっていう話を聞いてもらった方が多分モチベーションにつながるのではないかと考えてます。
藤原これから騎手を目指す子供たちのモチベーションにもなるといいですね。
武そうですね、僕も競馬学校にいて、千葉県の白井で3年間育って、その時間っていうのは全然嫌じゃなかったんですよ。自分が夢に向かっていってるっていうのを実感できる時間だったし、必要な勉強もできたし、だんだん憧れの人に近づいていったりとか、会えたりとか、生でその現場に入れたりとか外から見てたところに入っていけた。その実感を感じられた3年間はすごく良かったなと思ってます。騎手も、馬をひく厩務員さんもだと思いますけど、大きいレースで何万人のファンに囲まれて、パドックの中から見る風景とかすごい仕事をしてるんだなって感じます。そして、やりがいもさらに感じるしそういう素晴らしい世界に自分が入れるチャンスがあるっていうのを感じて頑張って欲しいです。

構成:スポーツ報知 志賀浩子
Photograher:篠原美穂子
広報担当:井手尾

藤原 菜々花ラジオNIKKEIのアナウンサー。担当番組:「中央競馬実況中継」「ななかもしか発見伝!」「こだわり羽生結弦セットリスト」等