競走馬に常に寄り添う厩務員。あすのダービー馬を育て上げることを夢見る若者たちに迫る

厩務員さんのお仕事とは? 一口に言っても、たくさんあります。馬にカイバを付け、調教前の馬装を準備し、厩舎のお掃除をする。いわば、競走馬のお父さん、お母さんです。その知識を身につけるためにはJRAの場合、競馬学校の厩務員課程への入学は必須となります。
厩務員課程の入学時期は1、4、7、10月の年4回。期間は6か月で、乗馬や座学のカリキュラムが目いっぱい詰め込まれています。

取材当日、青いヘルメットをかぶった1月生たちが、基礎馬術の授業に馬場に出てきました。その顔ぶれは、初々しい…あれっ? 若者ではありますが、騎手課程の生徒さんたちに比べると、年齢層はやや高め。
それもそのはず、厩務員課程の受験資格は「競走馬・育成馬・乗馬の騎乗経験期間の合計が1年以上あって、単独騎乗による3種の歩法(常歩、速歩、駈歩)ができること」となっているのです。つまり、みなさん牧場などで社会人を経験をしてから入学してくる場合が多いんです。2018年まで28歳だった年齢制限が撤廃され、門戸も大きく広がりました。

乗馬の授業は「前期は基礎です。まず、馬上体操といって、馬に乗ってのストレッチから。これができたら、乗馬の基本姿勢を身につけさせます。後期になると走路で乗ることを教えます。トレセンに入れば、臨戦態勢の競走馬に接することになるからです」と本間教官。
生徒さんの中には、入学前に乗馬をしておけば良かったという声が多くありましたが、いきなり無理なことをさせるのではなく、徐々に実戦的な内容にレベルアップしていくんですね。考えられたカリキュラムです。

馬場から戻ると、厩舎で乗り馬のお手入れです。洗い場で馬を洗ってる生徒さんに、厩務員課程の1日を教えてもらいました。
「馬房に5時30分に入り、3頭いる担当馬の馬房掃除からはじめます。終わったら朝食で、7時30分から乗馬。その日、乗る馬がホワイトボードに書かれているので、それをチェックします」

担当馬は3頭ですが、いろいろな馬に接する機会を作るために、ランダムに乗り馬が決められているそうです。自分の担当馬だけでなく、同期の担当馬にも乗ると言うことですね。さらに……
「乗り終わったら厩舎作業です。乗って、厩舎で手入れ。これを3回繰り返します。その後は昼食で、13時15分から14時30分ぐらいまで座学。その後は厩舎作業が17時まであって、あとは夕食をとって、以降は自由時間になります。消灯は22時です」
この自由時間にフィジカルトレーニングや、木馬を使って騎乗姿勢をチェックするトレーニング、学科の予習復習をするそうです。早朝からビッシリあるカリキュラムをこなしてクタクタになりそうですが、夢の実現のためとみんな頑張っています。

さて座学ですが、競馬学校のカリキュラムでは専門学科といわれていて、「相馬眼や護蹄、馬の飼料管理に関して学べた」と、現場に出てすぐに役立つ知識ばかりで、生徒さんたちは「ためになる」と口をそろえます。
佐々木教官が授業内容を、詳しく教えてくださいました。「馬学の授業では筋肉についてなど馬体のしくみを詳しく知り、骨折などケガに関することも含めて学びます。
飼料管理ではレース前後の飼い葉管理を、相馬では馬の立ち方や体型によって疲れやすい箇所や、胴の長さなどで適距離を見分けることを教えます」
ちなみに、護蹄では、馬の命である蹄の病気や蹄鉄の種類などを勉強するそうです。どれも、欠かせない知識ばかり。

そうそう、座学の後に集まってくださった生徒さんたちに、「しんどいことはありませんか?」と、ちょっと意地悪な質問をしてみました。みなさん、「寒い時期の運動」など正直に答えてくれましたよ。
「早起き」することも大変ですが、教官によると「トレセンに行けば、季節によっては2時、3時に起きて仕事をします。今のうちから夜型の生活リズムにしないことが大切なんです。
規則正しい生活をして、時間もキチンと守る。それができないとダメということです」と、これも実戦的授業の一貫のようです。

ちなみに、厩務員課程生のお休みは日曜と祝日。それ以外の日でも、自由時間内であれば買い物のために外出をすることができます。
しかし、“外の世界”を知っているだけに、時間に追われ、休みの少ない競馬学校での生活は、騎手課程より厳しく感じる生徒さんが多いんだそうです(笑)。
構成:スポーツ報知 志賀浩子
Photograher:山口比佐夫
広報担当:IDEO

藤原 菜々花ラジオNIKKEIのアナウンサー。担当番組:「中央競馬実況中継」「ななかもしか発見伝!」「こだわり羽生結弦セットリスト」等
