きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

欧州年度代表馬はバーイード

ヨーロッパの今年の活躍馬を顕彰するカルティエ賞が発表されました。まだ12月も残っているのに随分と気の早い話だとお思いでしょうが、ご存じのようにヨーロッパのシーズンの概念は、5月初旬のクラシック第1弾である英2000ギニーに始まり、10月中旬の英チャンピオンSなどブリティッシュ・チャンピオンズ・デイで幕を閉じます。つまりG1レースが開催される期間だけをシーズンと呼んでおり、リーディングジョッキーなどの選出もこの期間だけの成績で決められます。アイルランド、フランス、ドイツなどヨーロッパ主要競馬国も、この“競馬の母国”の考え方に準じています。ヨーロッパのホースマンの感覚では、もう1カ月近く前にシーズンは終了しているのだから、今年を締め括っても問題なし、ということなのでしょう。


注目の年度代表馬の栄光は、無念にも最後の最後で土がつきましたが、11戦10勝と無敵の快進撃でファンをワクワクさせたバーイードの頭上に輝きました。言い方が良くないかもしれませんが、“画竜点睛を欠く”感もあって、ブリーダーズCクラシックのフライトラインに美味しいところを全部持っていかれましたが、次元を超えた強さで連戦連勝した実力は本物でしょう。今後は種牡馬として異次元のポテンシャルを伝えてくれるはずです。楽しみに待ちたいです。ちょっと残念だったのが凱旋門賞馬アルピニスタでした。日本のJRA賞も北米のエクリプス賞も仕組みは同じなのですが、年度代表馬は各部門のチャンピオン選出馬から選ばれます。バーイードは最優秀古馬部門で選ばれて、年度代表馬にも重ねて選ばれました。この部門は他地域では牡馬と牝馬から、それぞれ選ばれるのですが、カルティエ賞では牡馬牝馬を合わせて一枠しかありません。凱旋門賞で持ったままの手応えで逃げる日本馬タイトルホルダーを交わし去りゴールを目指した強さは途轍もないレベルでした。その上、昨年来8戦8勝と無敗でG1は6連勝中と非の打ち所がない成績でした。無冠のまま引退するのは気の毒でなりません。


その代わり、というわけではないでしょうが、特別功労賞枠でアルピニスタの生産者であり馬主でもあるオーナーブリーダーのカーステン・ラウジングさんが推挙されています。イギリスの女性大富豪として有名ですが、馬主としての華やかな活躍も羨望の的となっています。生産者として送り出した馬から、エイダン・オブライエン厩舎で愛ダービーなど14勝してファンの人気者だったフェイムアンドグローリーが印象に残ります。彼はカルティエ賞の最優秀ステイヤー部門でチャンピオンに輝いていますね。その他にも南十字星下オーストラリアのザーキがG1戦線で大活躍しており、その実績は一級品です。次はアルピニスタに健康で賢い仔を生んでもらって、母の無冠の無念を晴らすような強さを伝えてくれたらと思います。

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