きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

ダート新世紀の夜明け

ヨーロッパでは主要レースがあらかた終了し、遠からず年度代表馬など今季の活躍馬を顕彰するカルティエ賞が発表されます。競馬ファンはこれから熱を帯びていく障害シーズンに関心を移してようです。アメリカでも今年のカテゴリーごとのチャンピオンを決める大一番ブリーダーズカップが2週間後の来月初めに行われ、2022年を締めくくります。その一方で日本の競馬は、今週の天皇賞(秋)からビッグレース目白押しの「ジャパン・オータム・インターナショナル」が開幕。盛り上がりを見せるのはこれからで、12月28日の中山競馬場のG1ホープフルSまで年内ギリギリまで白熱の戦いを楽しむことができます。お国柄はそれぞれで、レーシングカレンダーひとつにも歴史や伝統や国民性が色濃く反映されます。これはこれで味わい深いものです。
世界中の主要ビッグレースが居ながらに楽しめる日本ファンの“特権”に感謝です。

これまではファンの関心が高いとは言えなかったブリーダーズカップですが、マルシュロレーヌとラヴズオンリーユーが世界をアッと言わせる歴史的な大駈けを演じた昨年をキッカケに、そのステータスを飛躍的に高め、ファンの目を太平洋の向こう岸に集めてくれたようです。今年はちょっと寂しめで、短距離王者決定戦のブリーダーズカップ・スプリントにチェーンオブラヴ1頭だけがエントリーしています。このスピード頂上戦は、日本で種牡馬として大成功しているドレフォンとマインドユアビスケッツがワン・トゥーフィニッシュを決めたこともあるレースで、傑出した“日本適性”を秘める馬の宝庫といった感じでしょうか。チェーンオブラヴはオークスでデアリアングタクトの6着に頑張った馬ですが、その後は伸び悩み4歳暮れにダートに転じて、中山のアクアマリンSを後方一気に追い込んで新境地の扉を押し開きました。追い込み一手ゆえに展開に左右されるケースもしばしばで勝ち切れないレースが続きますが、再び開眼したのが海外遠征の場でした。ドバイやサウジアラビアなどの高額賞金レースは、出走馬の勝負度合いも濃いだけにハイペースになりやすく追い込みが決まる場面も珍しくありません。とくにスプリント戦はその傾向が強いようです。前述のマインドユアビスケッツは最後方一気の強襲策でドバイゴールデンシャヒーンを連覇しており、同じレースでレッドルゼルが2年連続2着に食い込んでいます。血統的にも父ハーツクライは芝とダート両方のG1を制したヨシダを出しています。ハーツクライ系のジャスタウェイ産駒のマスターフェンサーはクラシックに挑戦して、ケンタッキーダービー6着、ベルモントS5着と頑張りました。アメリカダートへの適性を持っていそうです。

日本ではダート番組の大幅な見直しが行われており、東京ダービーの賞金を大幅に増額するとともに、ジャパンダートダービーの開催時期を秋に移行するなど3歳クラシック路線の改革がスタートしました。この改革はクラシックにとどまらず、いずれはダート競馬全般に及んでいくのでしょう。多様な舞台が整備されていくのは、馬にとってはもちろん、競馬の成長発展にも貢献するはずで、ファンにとっては心弾む機会が増えそうです。いわば「ダート新世紀」でしょうか。マルシュロレーヌが切り拓いた道を未来に繋げるためにも、チェーンオブラヴの参戦は素晴らしいチャレンジであり、心から応援したいと思っています。

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