きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

セカンドチャンス

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クラシックは洋の東西を問わず世界中どこでも、サラブレッドにとっては生涯一度のチャンスであり、その重みも含めて高い価値を認められています。しかし生きもののことですから仕上がりが遅れて間に合わなかったり、思ってもみなかったレース中の不利に泣く馬も出てきたりします。そういう残酷さも含めて競馬なのだという考え方も一つの見識なのですが、アメリカのNYRA(ニューヨーク州競馬協会)が考案した「ターフトリニティ」というアイデアは、先々は世界中のホースマンやファンから熱い支持を集める人気シリーズになるかもしれません。単純に言えばターフ版三冠シリーズなのですが、開催順にベルモントダービー2000m、サラトガダービー1950m、ジョッキークラブダービー2400mと距離がダート三冠のケンタッキーダービー、プリークネスS、ベルモントSとまったく同じです。ファンには分かりやすく親しみやすい設定ですね。

ツボは開催時期にも秘められています。ダートの三冠最終戦ベルモントSが終わった同じベルモント競馬場で7月上旬にスタートし、8月上旬は真夏のリゾート・サラトガ競馬場に移動し、9月上旬にベルモントに戻ってジョッキークラブダービーでフィナーレを迎えます。このローテーションなら、アメリカの三冠レースはじめ、ヨーロッパのクラシックもあらかた終わっており、そこでのリベンジを誓う馬、仕上がり遅れで間に合わなかった馬には素晴らしいセカンドチャンスになります。実際、今年の第1戦ベルモントダービーではケンタッキーダービーで惨敗したクラシックコーズウェイが初芝にもかかわらず大逃げを決めて大波乱の立役者になっています。昨年のサラトガダービーはヨーロッパのクラシックに間に合わなかった遅咲きステートオブレストがG1初勝利の凱歌を上げると、その脚でオーストラリアの中距離頂上戦コックスプレートを競り勝ち、今季初戦はフランスでガネー賞、ロイヤルアスコットのプリンスオブウェールズSまで4カ国でG1を勝ちまくる破天荒な飛躍を遂げています。もう堂々たる一流馬の風格が立ち込めています。「ターフトリニティ」は、もはや近年最大の出世シリーズの折り紙を付けてあげて良いでしょう。

いずれも総賞金100万ドルのミリオンレースなのもモチベーションを高めます。夏のローカル開催がメインの日本から参戦を検討する陣営も出てくるでしょうね。「ターフトリニティ」という新しい枠組みが創設されたのは2019年と、まだ3年の歴史しかありませんが、サラトガが昨年からG1に、ジョッキークラブは今年からG3に格付けされ一両年中にはG1昇格して、三冠レースにふさわしい高い格式を備えます。現地土曜のサラトガでサラトガダービーがスタートします。メンバー的には前走ベルモントダービーの再戦といった顔ぶれですが、前走惜敗のゴドルフィンのネーションズプライド、クールモアのストーンエイジなどのヨーロッパ勢の逆転も十分考えられますし、初芝で覚醒したクラシックコーズウェイの破竹の勢い、東海岸の名門トッド・プレッチャー厩舎の3頭出しもなんとも不気味です。

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