きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

オークス&ダービーの二冠制覇へ

ようこそいらっしゃいませ。

この30年間で10勝というのがアイルランドの巨匠エイダン・オブライエン調教師の英オークスにおける輝かしい実績の一端です。直近10年間に限るとオブライエン師が6勝、宿命のライバルでイギリスを代表するジョン・ゴスデン師が3勝と、ほぼ“2強”で勝ち負けの争いを独占しました。今年も“黄金の方程式”通り、チューズデーのオブライエン師とエミリーアップジョンが短アタマの僅差でワントゥフィニッシュを決めています。エミリーは掴みかけた金星を惜しいところで取りこぼしただけに、判官贔屓(ほうがんびいき)も手伝ってスタート直後の出遅れが敗因としてクローズアップされました。しかし冷静に再現映像を観察すれば、出遅れたのはエミリーもチューズデーも同じ、違ったのはリカバリーの素早さでチューズデーの俊敏さが際立った点でした。エミリーが最後方に置かれたのに対し、チューズデーは立て直してリズムに乗ると気分良く追走し、直線に向くや早々とスパート、素晴らしい瞬発力を持続して先頭を奪うと、次走で仏オークスを勝つ実力馬ナシュワが並びかけようと脚を伸ばすのをアッサリ突き放すと、最後はエミリーが後方一気に鋭く急襲するのをガッチリ受け止め、遂に先を譲らないままゴールしています。相当に強い馬です。厩舎の先輩に比べて、一昨年のラヴの余裕たっぷり5馬身快勝、昨年のディープインパクト産駒スノーフォールの16馬身ぶっちぎり劇ほどの派手さはありませんが、奥の深さを実感させるに十分な才能をきらめかせました。名伯楽エイダンが愛馬のさらなる価値向上を目指して、今週土曜の愛ダービー出走へと舵を切るのも納得できます。“変則二冠”は実現するのか?大変に興味深い大一番で、深夜発走でも目が離せません。

英オークスから愛ダービーへと歩を進め、両方を勝ち切った馬は21世紀にはまだ現れていません。エイダン・オブライエン厩舎は英オークス10勝と飛び抜けた勝率を誇っていると言いましたが、愛ダービーとはそれ以上の実績を積み上げており、17頭もの愛ダービー馬を輩出しています。その中にはガリレオやハイシャパラルなど不世出の名馬も混じっているのですから並みの才能では勝てません。オブライエン師が送り込む精鋭たちは、レベルの高さと同時に層の厚さも超一級品、1-2フィニッシュは当たり前で、1-2-3フィニッシュの離れ業も珍しくありません。その中で牝馬が大仕事を成し遂げるのは至難の業です。

牝馬による愛ダービー制覇は、一番最近でもエイダン・オブライエン師がクールモアの専属調教師に抜擢された直後の1994年のことです。発足の時をほぼ同じくするゴドルフィンが送り込んだ“伝説の名牝”バランシーンがその馬です。彼女は英オークスでゴドルフィン初のクラシックホースとなり、先ごろ30歳の高齢で亡くなりましたが、牡馬のドバイミレニアム(名種牡馬ドバウィの父)と双璧のゴドルフィンの象徴として愛され尊敬され続けています。もう一頭はゴドルフィンのモハメド殿下とは縁戚のハムダン殿下ご自慢のサルサビルが、94年に英牝馬二冠に続いて愛ダービーをもぎ取っています。サドラーズウェルズ牝馬の最高傑作として記録にも記憶にも名を刻む名馬ですね。チューズデーは果たして歴史を書き換えたほどの名牝と肩を並べることができるのか?というのが今年の愛ダービーの焦点になりそうです。

×