きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

未体験という大冒険

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ケンタッキーダービーというレースは、出走馬にとって初めて経験する極めてアドベンチャーな出来事が待ち受けています。中には初めてどころか、この日この時この場所でしか遭遇できない、生涯最初で最後の体験も少なくありません。毎年5月の第一土曜日、チャーチルダウンズ競馬場を埋め尽くす大観衆の熱気を身近に皮膚を通じて味わう馬は、年間2万頭前後が生産されるサラブレッド大国アメリカにあっても千頭に一頭と小数点以下の数字です。年に一度のカーニバルを祝う「マイ・オールド・ケンタッキーホーム(懐かしきケンタッキーの我が家)」の万余の大合唱は、忘れられぬ感動の高ぶりを人と馬の心に刻み込みます。

しかし盛大の極致まで沸騰するセレモニーも、まだホンのプロローグに過ぎません。20頭すべて、全馬まだ経験がない未踏の距離に挑む想像を絶する大変な難関が、口を開けるのはこれからですから。そもそもライバルとの力関係もハッキリしない状況で未経験のハードルに挑戦するのは、サラブレッドにとって恐怖に近い感覚でしょう。ライバルたちに先んじて、できるだけ好位置を確保してアドバンテージを握りたいのは全馬に共通の思いでしょう。しかし今年もフルゲート20頭立てで確定していますから、ゲートに改良が加えられ内外の有利不利の解消に工夫が凝らされているとは言え、やはり外枠を引いた馬は多少とも不自由な思いをさせられます。スタート直後から激しいポジション争いが繰り広げられ、各馬が経験したこともないようなハイペースが出現します。

そんな中でも、日の丸代表クラウンプライドは絶好の枠を引いたものです。ラッキーセブン!この枠なら内過ぎず外過ぎず絶好の塩梅でしょうね。しかもすぐ内側に入ったメシエは、ハナ争いを主張する先行勢にあっても有力な一頭です。彼を見るような位置で競馬ができれば、面白いところがありそうです。イメージとしては、逃げる本命馬をマークするように、直線で力強く追い込み鮮やかな差し切りを決めたUAEダービーの再現でしょうか。ゲートをシッカリ出られるか?勝負の帰趨(きすう)はこの瞬間にありそうです。日本から声援を送るファンにも、ケンタッキーダービー制覇という“初体験”がプレゼントされると嬉しいのですが。

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