きょうの蹄音競馬にまつわるちょっといい話

2021.10.29

国際化と検疫の壁

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北半球ヨーロッパでは平地シーズンにピリオドが打たれ、向こう半年間は障害レースにファンの関心が集まる季節に入ります。しかし南半球オーストラリアは今が春競馬のクライマックス!先々週は1着賞金が5億円を超える芝レースでは世界最高賞金を誇る短距離の「ジ・エレベスト」が行われ、先週は日本調教馬リスグラシューが圧勝して我が国でも名を高めた中距離の看板レース「コックスプレート」がファンを熱狂させました。そして来週には州によっては祝日とされる国民的イベントであり、世界的にも人気の高いマラソンレース「メルボルンC」が予定されています。

これらのレースには、名誉と高額賞金をモチベーションにヨーロッパを中心とした海外から挑戦する馬が少なくありません。しかしコロナ禍もあってか、もともと厳しかった“検疫”が一層強化され、コックスプレートに勝ったアイルランドのジョセフ・オブライエン調教師は「地獄のような検疫」と自身の体験を振り返り、来年以降の遠征に慎重な姿勢を隠しません。オーストラリアは、アメリカに次ぐサラブレッド生産大国であり、日本でもオージービーフの名で広く親しまれている牛肉輸出大国、そして大農業国というお国柄から“検疫”にはことのほか神経質なことで知られています。検疫は最後の“水際”でしょうから、慎重になる気持ちも分かります。それに加えて近年は出走馬、出走予定馬に不幸なアクシデントが続いたことも事態に輪をかけています。5年ほど前に日本からメルボルンCに遠征し1番人気に支持されたアドマイヤラクティがレース直後に急死する悲劇に見舞われましたが、今年もヨーロッパから参戦を予定していたアウェイヒーゴーズが故障するなど直前リタイアも続出し、体調管理をも含めた徹底的な“検疫”が義務付けられるようになっています。

そうした状況の余波で、移籍を含めて“オーストラリア熱”が高かった日本馬も、今年は遂に1頭の遠征もありませんでした。現地ではディープインパクトの血を筆頭に、ロードカナロアやモーリスなどジャパン血統が高い評価を得ています。実際に現役競走馬として移籍したトーセンスターダムやブレイブスマッシュが現地で大活躍し種牡馬に登り詰めたサクセス・ストーリーを思えば、こうした高評価も“買い被り”とは言えません。日本馬の質を高めると同時に、世代中どこへ行っても通用する適性の幅広さを獲得していくために、各地への遠征は欠かせません。進化と発展を続ける日本競馬ですが、いま一度“世界基準”(スタンダード)に則った馬づくり、調教法、レース形態とその運営などをコツコツと築き上げていく地道な営みを求められているのでしょうか?