きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

世界と戦う裏側

7月9日は、武市康男 調教師の誕生日です。誕生日おめでとうございます!
ようこそいらっしゃいませ。

アメリカで“三冠レース”と言えば、ケンタッキーダービー2000m、プリークネスS1900m、ベルモントS2400mを指し、いずれもダートを舞台に施行されています。これをバックボーンとして“ダート王国アメリカ”が形成されていますが、もう一つの柱として世界の頂点を競うハイレベルな芝レースの興隆が大きなテーマとなっているのはもちろんです。数年前に芝のベルモントダービー&ベルモントオークス2000mが創設されましたが、今季からこの両G1レースを起点に、牡馬はサラトガダービー1900m、ジョッキークラブダービー2400mを加え、ダート三冠と同距離の“ターフトリニティ”が、牝馬もほぼ同様に“ターフティアラ”が、それぞれ芝三冠としてスタートします。“世界を牽引するダート王国”と並ぶ“世界に君臨するターフ大国”建立へのチャレンジです。

この試みは始まったばかりなのですが、ヨーロッパを中心とする先進的なホースマンの賛同を集め、トップバッターのエイダン・オブライエン厩舎は、明日行われるベルモントダービーには3歳を迎えて急激に力をつけ英ダービーで1番人気に支持された実力馬ボリショイバレーを、ベルモントオークスは2歳時から“大物”と評判が高かった好素質馬サンタバーバラを送り込みます。海外遠征には世界一熱心な厩舎ですが、今季は例年以上に前向きで、早くも藍英仏3カ国で3歳クラシックを6レース、古馬混合戦では3レースと合計9つものG1を制覇しています。中でもセントマークスバシリカは父がフランス繋養種牡馬シユーニで、フランスのレースではボーナス賞金の対象となることから、敢えて仏2000ギニー、仏ダービー路線に舵を切り、見事に二冠馬に輝いています。先週は古馬挑戦のG1エクリプスSにチャレンジし、歴戦の強豪を4馬身半ちぎる圧勝で2歳時からG1を4連勝!今や“欧州最強馬”の呼び声が巻き起こっています。

その馬に関わるすべての人々にとって、賞金、得られる経験、約束された名誉、そしに未来への架け橋など、あらゆる点で最良の結果を生み出すために、世界中から迅速に情報を収集し、繊細綿密に分析し、大胆果断に価値判断と意思決定を行い、チーム一丸となって真っ直ぐにレースに向かう姿勢には感動すら覚えます。“コロナ禍”における海外遠征が多くのリスクを内包しているのは確かでしょう。しかし帯同スタッフの配置に始まって、隔離検疫回避には現地ジョッキーの戦略的手配など課題が山積しています。安全な飼料調達にも細かな気配りが欠かせません。オブライエン厩舎は、昨年の凱旋門賞遠征では、禁止薬物が飼料に混入するアクシデントに見舞われ、出走断念に至る苦い経験もあります。一口に“厩舎力”などと言いますが、どれをとっても想像を絶する難事業に思われます。世界と戦う!とはこういうことも含めての話なのでしょうね。

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