きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

農業と工業の狭間

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報道等でご承知のように、JRAは先週土曜の東京未勝利戦を勝ち上がったソーヴァリアント号から禁止薬物のカフェインが検出されたとして、同馬を失格とし賞金没収の措置をとりました。JRAでは、この夏の函館競馬で飼料に禁止薬物が検出されたことから、大量の出走取消事件が発生したのは記憶に新しいところです。この問題は日本国内にとどまらず、今週の凱旋門賞でもアイルランドの超名門エイダン・オブライエン厩舎の所属馬4頭が、禁止薬物混入の飼料を採取した疑いで直前に出走取消に踏み切っています。

意図的に禁止薬物を混入させる犯罪行為でない限り、超名門厩舎を含むこれだけ世界的な規模で今起きていることの大半は、競馬の事業発展とそれに伴う競馬の産業的本質の変容にありそうにも思います。所管官庁が農林水産省であるように、日本の競馬は第1次産業、大雑把に農業の一部として位置付けられています。しかし時代の進展とともに、本来が農業としての競馬産業が効率化を求めて分業化・工業化されていくプロセスで、禁止薬物検出事案が発生していると考えられます。

競走馬の主食である「飼馬」は、エン麦を中心に豆類や青草などの農産物にカルシウム、ミネラル、各種ビタミン類のサンプリメントを混合して成り立っています。禁止薬物の混入防止には、JRA関連会社が厳格な検査体制を敷いているようですが、複雑微妙な化学の世界を相手に完璧を期すのは困難さがついて回るようです。牧歌的な農業世界に回帰するという提案も現実的ではないでしょう。しかしコロナ対策にも苦慮している人類は、一歩下がって競馬のあり方を謙虚に考え直す必要があるのかもしれません。

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