きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

中山を彩った名馬たち【24】トウカイテイオー
1993年12月26日 第38回有馬記念

華麗なる復活劇――。
野球にも、サッカーにも、この手のドラマは存在するが、その鮮やかさ、心が震えるような感動、ファンをも巻き込んでの熱狂……という点においては、競馬に勝るものはない。
デビューから無敗のまま日本ダービーを制覇。“シンボリルドルフの血を受け継ぐ超良血のサラブレッド”として、数多の賞賛を浴びたトウカイテイオーもまた、華麗すぎるほどの復活劇を成し遂げた名優の一頭だ。

「レース中、3、4回、ミスがあったとしても、それでも今日のトウカイテイオーには敵わなかったと思う。それだけ、強かった」
レース後、名手・岡部幸雄が呆れたような顔でつぶやいた日本ダービー後、歩様に異常を来したトウカイテイオーは、レントゲンの結果、骨折が判明。親子2代に渡る無敗の三冠馬誕生の夢は儚く潰えた。
しかし、1年後、岡部幸雄を背にしたトウカイテイオーは、大阪杯で見事に復活する。「地の果てまででも走れそう」レース前、岡部が自信たっぷりに語った言葉通り、ムチを使わないどころか、ほとんど追うこともないままの復活劇だった。
その年の成績は、天皇賞(春)5着。右前脚の骨折から復帰した天皇賞(秋)7着。ジャパンカップこそ1着になったものの、次走、17万票を集め、ファン投票1位に輝いた有馬記念は、過去最低となる11着……。しかも、その後、左中臀筋を痛めたことが判明し、再び、戦線を離脱する。

トウカイテイオーは、もう、終わった……。
多くのファンは、そう思った。しかし、一年後、同じく有馬記念の舞台に帰ってきたトウカイテイオーの姿に、内村正則オーナー、松元省一調教師をはじめとする厩舎のスタッフ、ジョッキーを務めた田原成貴は、自信を持った。奇跡を信じたのではない、復活を確信した。
そしてトウカイテイオーは、見事な走りでその期待に応える。
「この勝利は、日本競馬の常識を覆したトウカイテイオー、彼の勝利です。彼を褒めてやってください」。
そうつぶやきながら、男泣きに泣いた田原成貴の顔を、いまでもときどき思い出す――。

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