きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

中山を彩った名馬たち【01】オグリキャップ
1990年12月23日 有馬記念

1月5日は、津村 明秀 騎手の誕生日です。誕生日おめでとうございます!
かつて、綺羅星の如き名馬たちが、中山競馬場を舞台に、数多の名勝負を繰り広げてきた。
中山のコースによく映えた、2013年、中山記念の覇者、ナカヤマナイト。騎手・岡部幸雄が、天に向かって高々と1本の指を突き上げた“皇帝”シンボリルドルフの皐月賞。そして――17万人の大観衆で埋まった中山のスタンドが大きく揺れたオグリキャップの有馬記念……。目を瞑ると、いまもあのシーンが蘇ってくる――。

「馬体は貧弱、毛はぼさぼさ。いかにも走らなそうな馬やなぁと思ったんだけど……レースに行ったら一頭だけエンジンが違っていたね」
オグリキャップとの出会いをこう話すのは、笠松で手綱をとった安藤勝己元騎手。
先日お亡くなりになった瀬戸口勉元調教師は、「プールが苦手でね、溺れているんじゃないかと思った」と、生前、目を細めながら、懐かしそうに語っていた。

これが、オグリのラストラン――。
陣営が最後の舞台に選んだのは、競馬界最大のフェスティバル、暮れのグランプリレース、有馬記念。舞台は……中山競馬場、芝2500mの内回りコースだ。
「勝てなくてもいい。無事に帰って来てさえくれれば……」
ファンは心の中で祈りの言葉をつぶやき、最後の手綱を託された武豊は、それでも、何かが起きそうな予感を感じていた。
4コーナーで、先頭に並びかけるオグリ。
勝負は中山名物……高低差2・2m、最大勾配2・24%の最後の直線へ。
内からは、懸命に追いすがるホワイトストーン。
外からは猛追するメジロライアン。
「オグリだ……オグリだ……オグリだ……」
寄せては返すさざ波が、大きなうねりとなり、スタンドを飲み込んでいく。
行け! オグリ!
頑張れ、オグリ!!
それはファンと中山競馬場がひとつになった瞬間だった。

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