きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

調教師の見識

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凱旋門賞に大本命馬エネイブル、惑星の筆頭クラックスマンを送り込むジョン・ゴスデン調教師は、一昨年の凱旋門賞を英ダービー馬ゴールデンホーンで勝っている重鎮ですが、競馬のあり方について高い見識から本質的な問題提起を行う論客としても有名です。最近ではサラブレッド生産について、スピード化と早熟傾向を競う現状は競馬の将来を危うくすると警鐘を鳴らしています。貴族階級の大オーナーブリーダーが減少したことから、生産はセリ市場至上主義に傾き、売りやすい早熟のスピード馬が増え、セントレジャーやアスコットゴールドCのような伝統ある長距離レースが衰退してしまった、「そのうち2400mのレースもアメリカのようにマラソンレースにカテゴリーされるようになってしまうだろう」と嘆いています。

ゴスデン師は、そうした風潮の反面教師として偉大な先代ヴィンセント・オブライエン師から引き継がれたエイダン・オブライエン師とクールモアの生産と育成に敬意を表しています。確かにこの軍団はかつてのヨハネスブルグとか、その仔スキャットダディ、ダンチヒ系ウォーフロントなど早熟スピード血統を積極的に取り入れていますが、ゴスデン師によれば、それもスピードとスタミナの適正なバランスに優れたサラブレッドを創り出すためのチャレンジゆえなのだということです。そうした理想のバランスを追求し続けているからこそ、エイダンの馬は中距離に強いのだ!と。昨年の凱旋門賞のエイダンホースの1-2-3フィニッシュがなるほどと納得させられる説得力に富んだ卓見だと思いました。

今年のセントレジャーは半月後の9月16日に行われるのですが、現在24頭の登録が残っており、その内ちょうど半分の12頭が愛ダービー馬カプリを大将格とするオブライエン厩舎の管理馬です。スピードとスタミナの究極のバランスを追い求めるオブライエン師の執念が伝わるようです。ゴスデン師も3200mの新設G1グッドウッドCの初代王者ストラディヴァリウスを対抗馬として送り込み、ベテランのサー・マイケル・スタウト師は本格化気配を漂わせる晩成の大器クリスタルオーシャンで参戦します。ヨーロッパを代表する巨匠名匠が伝統のレースを実りあるものにしようと懸命なチャレンジを続けています。こうした見識に支えられて競馬の今までがあり、これからの未来が拓けていくのでしょう。

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