きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

マラソンレースの逆襲

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たった一つのG1レースの創設が、そのカテゴリー全体を活性化させ、全体のレベルアップにも繋がっているというお話をしました。3年前にロイヤルアスコットで始まったコモンウェルスCというスプリントG1がそのキッカケでしたが、競馬発祥の地イギリスでは、そうしたレース体系の見直しが様々なカテゴリーで取り組まれていて、今年はマラソン分野でグッドウッドCがG2からG1へと昇格します。ご承知のように、ヨーロッパではメートル法に換算して1300mまでをスプリント、1301m以上1900m未満をマイル、1900m~2100mが中距離、それを上回り2700mまでが長距離、2701mを超えると超長距離、世に言うマラソンレースにカテゴライズされます。

極論すればノーザンダンサーの登場がこのカテゴリー毎の盛衰に決定的な影響を及ぼしたのですが、50年近く前にノーザンダンサー直仔ニジンスキーが史上最後の三冠馬となって以来、競馬のスピード化が進み、マラソン分野に属するセントレジャーが存在感を失い三冠という歴史的体系が有名無実化してきました。古馬領域では往時は初夏のロイヤルアスコット4000mのゴールドCに始まり、真夏のグッドウッドC3200m、秋口のドンカスターC3600mが「長距離三冠」の美称でファンの人気を呼んでいたそうです。しかし今ではG1格付けされているのは王室主催のゴールドCだけ、寂しいことになっています。

心あるホースマンからは、過剰なスピード化は競馬を衰亡させる、スピードとスタミナのバランス良い継承と発展こそ競馬の持続的な成長のエンジンではないのか、という声が起きるようになり、マラソンカテゴリーの再構築に着手したというのが今回のG1昇格の背景のようです。ヨーロッパでは障害レースという人気カテゴリーの存在も大きく、ステイヤーはそちらに流れる傾向も強いようです。母国アイルランドに帰ったワークフォースや今年の英ダービー馬ウイングスオブイーグルズを出したプルモアなどは現在はクールモアの障害馬専用スタッドで供用されています。そうした需要があるだけまだマシで、日本の現状を考えるとステイヤーの引退後は暗澹たるものがあります。グッドウッドCという一つのキッカケが、スプリントからマラソンまで競馬のバランスの良い発展に貢献してくれることを祈るばかりです。

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