きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

忘れない。

ようこそいらっしゃいませ。

未曾有の被害をもたらした東日本大震災から、明日で6年が経ちます。すべてを根こそぎ奪い去っていったあの大津波の衝撃的な映像は、今も眼の奥に焼き付き消えることがありません。牧場をはじめとした競馬界が受けた被害も甚大なものがありました。中でも、壁や天井が崩れ落ち、割れたガラスの破片がパドックに散らばった福島競馬場は、再開までに約1年半もの時を要しました。

――こんな状況の時に、スポーツイベントや、コンサートをやっていいのか!?
誰もがそう思ったはずです。そんな自粛ムードが高まる中、いち早く、再開を決めたのが、日本中央競馬会でした。きっとこの決定を耳にした馬主のみなさまの心の中にも、厩舎関係者、ジョッキーのみなさんの思いの中にも、“本当にそれでいいのか?”という揺れる気持ちがあったことだろうと思います。そんな迷いや戸惑いを吹き消してくれたのが……全レース終了後に行われた募金活動に並ぶ競馬ファンの長い、長い列でした。

無言で募金箱にお札を入れる人。
“みんなで頑張ろう”と声をかけてくれる人。
豚の貯金箱を大事そうに抱えて長い列に並ぶ、小さなお子さんの姿もありました。

「競馬をやってよかった」
「競馬があってよかった」

競馬を愛するすべての人の心に、温かい炎が灯った瞬間でした。

あれから6年……。
今も震災の傷痕はあちこちに残り、復興はまだ道半ばです。

昨年お亡くなりになった永六輔さんが、生前、こんなことを話していたそうです。
「人は2度死ぬ。1度目は死んだ時。2度目はそれが忘れられた時だ」と。

――忘れない。
この言葉をもう一度噛み締めながら、競馬を愉しみたいと思います。

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