きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

モーリスの価値

ようこそいらっしゃいませ。

この日曜の香港国際競走のオオトリを飾る最高賞金レースG1香港カップは、日本馬モーリスが出遅れ気味ながら直線に向いて異次元の末脚で馬群を切り裂きました。圧巻のパフォーマンスというしかありません。敗れた馬の関係者が一様にモーリスを賞賛しリスペクトしているのには、驚きを通り越して清々しい気持ちになりました。3着ステファノスのスミヨン騎手は『偉大なチャンピオンには敗れたが、この馬の力は出し切れた』。4着ラブリーデイのボウマン騎手は『パーフェクトライド!パーフェクトレース!ただモーリスが強かった』。大逃げを打ったエイシンヒカリの武豊騎手も『彼らしいレースはできた』と納得の表情。勝者も敗者も力の限りを尽くした素晴らしいレースでした。

モーリスはこれがラストランで、年が明ければ種牡馬として第二の大仕事が待っています。手綱を執ったライアン・ムーア騎手が語るように『マイルで素晴らしい馬だが、2000mではもっと素晴らしい』ことを証明したのですから、馬主の皆さんには彼の種付け料が一体いくらになるのか?気が揉めることです。加えてモーリスはこれまでの先輩種牡馬になかった強みを備えています。ご承知のように父スクリーンヒーローは母父にサンデーサイレンスを抱えており、モーリスとサンデーサイレンス2世を父に持つ牝馬との配合では、サンデーサイレンス4×3の奇跡の血量が実現します。これまでも今週の朝日杯フューチュリティSに出走する札幌2歳S馬トラストなどサンデーサイレンス3×3のクロス馬はいましたが、この配合は馬主さんにとってもリスク込みの冒険に感じられます。4×3ならさほどリスクを意識しなくて済むわけで、サンデーサイレンス系の血統にとっては新時代が幕を開けることになります。モーリスは新時代の先駆者となれるのか?期待は膨らみます。

モーリスの血統的特徴を一口に言ってしまえば、『由緒正しい』というキーワードが浮かんできます。 父スクリーンヒーローのG1勝ちは単勝41倍の9番人気だったジャパンCだけと少し地味ですが、祖母が名牝ダイナアクトレスと一本筋の通った名家の出でした。モーリスの血統構成全体も、ロベルトとヘイローとサドラーズウェルズの母父ボールドリーズンのヘイルトゥリーズンが3本、ノーザンダンサーはそのサドラーズに加えてダンチヒ、ノーザンテースト、リファールなど世界の主流血脈がほど良いバランスで散りばめられており、どのポイントからでもアタックできそうなバリエーションの豊かさを誇っています。母系も4代母にあたる伝説の名牝メジロボサツは当時の大主流血脈ブランドフォード4×4.5のクロスを持ち、この牝系からメジロドーベルも輩出するなど懐かしいメジロの遺産として輝きを放っています。モーリスにとって祖父のグランスワンダーも含めて、こうした人々から愛される要素をいっぱい持っているのも大きな価値になるでしょう。

×