きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

ビュレットトレインの挑戦

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昨夜、イギリスのグッドウッド競馬場で行われたメイドンは、未出走馬や未勝利馬が集まる最下級のレースなのですが、重賞レースにも劣らない興味深い一番として大きな話題を呼びました。なぜそんなレースがファンを興奮させるのか?理由は今をときめくフランケルとその1歳上の半兄ビュレットトレインのともに初年度産駒となる息子同士の直接対決にありました。フランケルは説明の必要もありませんが、ビュレットトレインも最近では世界で一番有名なペースメーカーとして向こうのファンには親しまれているアイドルホース的な存在です。

3歳時には重賞制覇の経験もあり、ダービーの晴れ舞台に上り詰めて5番人気とそこそこの評価を得ていた馬です。ところが4歳のシーズン後半にヘンリー・セシル調教師は気性難の弟のために兄に調教パートーナー兼ペースメーカーの難役を命じます。最大の見せ場は揃って引退レースとなった英チャンピオンSでした。好発を決めた兄は出遅れた弟を気遣うようにポジションを下げ、ようやくポジションを上げてきた弟を先導して勝利のゴールを目指します。そのウイニングランは見たこともない美しさでした。弟のクウィーリー騎手が兄のモンガン騎手の手を高々と掲げて感謝の意を伝え、観客は万雷の拍手でそれを迎えました。年度代表馬にフランケルが選出されたのは当然でしょうが、特別賞にチーム・フランケルが推挙され、表彰プレートには馬主、牧場、厩舎関係者に混じってビュレットトレインの名前が刻まれています。

10頭立てで行われたグッドウッドの結果は、ここまで2着3回と惜敗続きだったゴドルフィンのセレスティアルセレスが抜け出し初勝利を飾り、弟フランケルのモナークスグレンは短頭及ばず悔しい2着、兄ビュレットトレインのサーナイジェルグレスレイは6着に敗れています。競馬の神様はそう簡単に安手のドラマは創らない鬼監督のように厳しいようです。でもドラマは序曲の最初の1小節が鳴り響いたばかり。弟の種付け料12万5000ポンド≒1600万円余りに対しアメリカに渡って種牡馬となった兄は7500ドル≒80万円弱と比べものにならない現状ですが、ファンはそんなことに関係なく兄弟対決の行く末に喝采を惜しまないでしょう。


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