きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

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人と馬との関わりは遥か紀元前から始まり、家畜化された馬は農耕や軍馬として欠かせない存在となりました。人の進化とともに歩んできたといってもいいでしょう。本日は1頭のサラブレッドを題材にした物語をご紹介します。

「ウォー・ホース~戦火の馬~」という物語をご存じでしょうか。1914年から1918年にかけて行われた第1次世界大戦を時代背景に描かれた1頭のサラブレッドと少年の奇跡の物語です。イギリス南西部にある農業酪農が盛んなデヴォンで農耕馬とサラブレッドの血を引く仔馬ジョーイと少年アルバートが出会うところから物語は始まります。この頃始まった第1次世界大戦は世界で最初に起こった世界大戦であり、この戦いによる犠牲者は兵士だけでも全世界で970万人を超え、民間人に至っては700万人とも1000万人とも言われています。

人類史上類を見ない大きな被害をもたらした要因には多くの国が戦争に参加したことと、各国が競い合う様に近代兵器を生み出したことにあります。近代兵器が投入されるまで主戦を担っていたのは剣や単発式の銃を持った騎兵であり、当然馬もその機動力を買われ、多くの場面で重用されていたのです。イギリス軍がこの戦争に投入した馬の数は100万頭にものぼったといわれ、大戦で最も激しい地上戦が行われた西部戦線では約25万頭ものイギリス軍馬が犠牲になったとの記録があります。物語の中でもアルバートと出会ったジョーイも戦場へと駆り出され、2人は離ればなれになります。

戦争が終結した後も財政的に逼迫していた軍には全ての馬を本国に移送することができず、8万5000頭は食肉となり、50万頭は農耕馬として売られ戦費に充てられ、母国イギリスの地を踏むことができたのは、当時75万頭いた中から若く健康なたった2万5000頭のみだったそうです。

「ウォー・ホース」の著者マイケル・モーパーゴ氏は『何らかの形で戦争中の普遍的な苦しみが表現された物語を書きたかった』と話しており、この物語は愛や忠誠、人間と動物の絆や人の死、悲しみ、怒り、戦争の無用さなど多くのテーマに触れています。

この小説を題材にした音楽劇が2007年より公演され、本年は、今週末の8月24日まで東急シアターオーブで見ることができます。物語の結末が気になる方は、是非、ご覧に行かれてはいかがでしょう。

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