きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

2010年代競馬の生き証人


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過去1着、2着と輝かしい実績のあるドバイシーマクラシックにも登録があり、明けて10歳の今年も元気な姿を見せてくれると勝手に信じ込んでいた古豪シリュスデゼーグルが引退することになったそうです。本格化以降はG1を主戦場に通算67戦22勝、2着も20回を記録しています。連対率でいうと優に6割、3着内率は実に7割を超えます。せん馬ゆえクラシックや凱旋門賞など華やかな舞台には無縁で、使えるレースを求めて6カ国・地域の19競馬場を転戦しながら、常に明日なき戦いを強いられてきたことを思えば、本当にファン孝行で律義な馬でした。

血統的には大馬産家マルセル・ブサックの最高傑作トウルビヨンに遡ります。ほぼフランスと日本だけで栄えた異系の血脈ですが、パーソロンを通じて多様な枝を伸ばした日本でも、今やわずかにオルフェーヴルの母父メジロマックイーンに面影を残す程度で父系としては絶滅し、本家フランスでは最良の子孫シリュスがせん馬とあっては断絶したも同然の境涯にあります。サラブレッドの進化の裏にある厳しい淘汰の歴史を目の当たりにする思いで粛然とさせられます。

シリュスデゼーグルの偉いところは、時代を代表する名馬たちと同じターフを走り抜いていることです。無敗の帝王フランケルとの英チャンピオンSのは強烈でした。ぶっちぎりの圧勝が当たり前だった帝王に2馬身と離されず、キングジョージ勝ちのナサニエルを2馬身半突き離して2着に頑張り通しました。生涯3勝もした得意のガネー賞では凱旋門賞連覇の女傑トレヴに土をつけています。愛チャンピオンSではオーストラリアの国民的英雄ソーユーシンクと日本のエリザベス女王杯連覇でお馴染みのスノーフェアリーをまとめて負かしました。G1・14勝のゴルディコヴァと一騎打ちを演じたこともあります。日本のファンにはジャパンCにも来日していますが、ドバイシーマクラシックでのジェンティルドンナとの死闘が思い出深いかもしれません。世界のターフを彩ったヒーロー、ヒロインの傍らにはいつもシリュスの姿がありました。彼の蹄跡を辿ることは2010年代前半の世界の競馬を振り返ることになります。こんな馬はもう出てこないでしょう。種牡馬になれないのは残念ですが、余生はいつまでも元気に暮らしてほしいと願うばかりです。

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