きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

《海外流出》と《海外進出》

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ドバイミーティングは今週末の開催ですが、月が替われば香港やオーストラリアでもG1レースが盛んに行われます。こうした海外G1へ遠征する日本馬が近年加速度的に増え、競走馬資源の《海外流出》が少なからず問題視されてきました。野球やサッカーの有力選手の海外移籍は当たり前の時代です。金銭的モチベーションはもちろんですが、究極のハイレベルで自分自身や日本野球、日本サッカーの価値を極限の高みまで追い求めたいという求道者的欲求も強く支配しています。問題は簡単ではありません。G2レースを格上げするG1水増し作戦で解決するとはとても思えません。

問題を複雑にしているのは、日本のホースマンにとって海外遠征は単純に《海外流出》にとどまらず、極めて意識的かつ戦略的な《海外進出》という意味合いが深く濃いようにも思えるからです。《進出》の背景には、日本生産調教馬のレベルが高まれば高まるほど進行する生産市場の苦悩が横たわっています。日本では毎年7000頭弱のサラブレッドが誕生しています。種付け需要は不受胎などを込みにして1万頭程度でしょうか。最近は種牡馬の健康管理や医療技術も飛躍的に進んで、ディープインパクトなどのトップサイヤーは年間250頭を超える種付けを消化しています。皆んながそうだと仮定すれば、種牡馬40頭で事足りる勘定です。現実はそこまで尖鋭化していないのですが、今年の供用予定種牡馬は251頭で、5、6年前には300頭を超えていたそれが急速に減少しています。

好むと好まざるとに関わらず種牡馬マーケットは縮小傾向にあるようです。優秀なサラブレッドが増えているのに市場自体は縮んでいます。しかし世界に目を向ければ、先進国ヨーロッパはおいても、種付け需要4万頭近いアメリカ、ニュージーランドと合わせて2万5000頭を超えるオーストラリア、南米はアルゼンチン一国だけでも日本の倍以上の市場規模があります。競馬振興に熱心な中国や韓国、カタールなども今後は有望なマーケットに成長するでしょう。こういった世界情勢を分析していくと、これらの国々のG1レースに日本馬が参戦することは、単なる遠征を超えて市場拡大を図る海外進出キャンペーンになります。日本の競馬も大切なのですが、こうした流れと乖離しないような知恵が必要になりそうです。

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