きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

鞍上八策

ようこそいらっしゃいませ。

坂本龍馬は王政復古に始まる新時代への戦略骨子を京に上洛する船中でしたためたと伝えられます。明治維新の起爆剤となった『船中八策』と呼ばれるものです。
『競馬にも戦略が必要なのだよ』と語ってくれたのはトレヴのジャネル騎手でした。日本馬が凱旋門賞に勝つには?という問いに答えものです。昨夜のロイヤルアスコット・プリンスオブウェールズSを見ながらそんなことを考えていました。日本のスピルバーグは残念な結果に終わりましたが、闘争心あふれる立派なレースをしてくれたと思います。アスコットの起伏に富んだタフでハードな馬場にもしっかり対応していました。ちょっと流れが向かず末脚の切れを発揮できませんでしたが、日本調教馬の勝利という光景も遠からず見られるはずです。

その点、次々と目まぐるしく変化する状況をしっかり読んで流れを引き寄せたのが、勝ったフリーイーグルのパット・スマレン騎手でした。先行して粘り強いオーストラリアのクライテリオンを咎めるように自ら先頭を奪い、実力馬ザグレイギャッツビーの追い込みもハナ差しのぎ切りました。したたかな戦略の勝利だったと思います。『鞍上八策』の境地でしょうか。彼らは走りながら状況を読み取り、それへの最善の手法を瞬時に考えつき、高度に洗練された技術力でそれを実行に移します。これが三百年の歴史に培われたロイヤルアスコットの真髄なのでしょう。強い馬を育てるばかりでは世界の頂点は征服できない、そんなことを考えさせられた一夜でした。

×