海外だより

ケンタッキーの空まで翔け上がれ!

毎年9月中旬にチャーチルダウンズ競馬場で開幕して、全米各地は無論のこと、ヨーロッパや中東ドバイ、そして日本に至るまで、延々7カ月余りを費やして過酷で熾烈な出走権争奪戦を繰り広げ、翌年5月第1土曜のチャーチルダウンズ競馬場に整えられた20のスターティングゲートに、それぞれ収まるまでの一大絵巻『ロード・トゥ・ザ・ケンタッキーダービー』が、いよいよ大詰めを迎えようとしています。どんな大作ドラマも太刀打ちできないと思える壮大なキャラバンは、今月下旬には勝てば一発で出走権が獲得できるフロリダダービー・サンタアニタダービー・UAEダービーなど7レースから構成されるチャンピオンフェーズに突入します。日本でもシリーズのジャパンラウンド最終戦として伏竜Sが、中山競馬場を舞台に今年は3月29日に行われる予定です。

レース名の由来は、有名な『三国志』を出典としています。ご存じのように、竜が天に翔けるための雲を待つように、野に潜み時機が至るのを待つ〝伏竜〟天才戦略家・諸葛孔明を中山王・劉備が招聘に訪れる場面から物語が始まります。こうした世に隠れた天才を野に横たわる竜にたとえて〝伏竜〟または〝臥龍(がりゅう)〟と呼び、鳳凰(ほうおう)の雛(ひな)を意味する〝鳳雛(ほうすう)〟と合わせて、将来有望な若者を〝臥龍鳳雛(がりゅうほうすう)〟〝伏竜鳳雛〟と呼ぶようです。JRAは、この故事にちなんで中山の『伏竜S』、京都の『鳳雛S』をダート戦線のクラシック登竜門として編成しています。まだ年若く経験も少ない若駒が、クラシックを通じて天の極みまで駆け上る姿を連想させるようで、素晴らしいレース名ですね。先々まで語り継がれるような傑作ネーミングですね。

ところが伏竜S、まだ歴史が浅いせいか、本番まで1カ月と海外遠征にしてはローテーションがキツ過ぎるのか、実績が今一つの印象もあります。17年から『ジャパン・ロード・トゥ・ザ・ケンタッキーダービー』のラインナップに加わり、今年で9回目ということになりますが、フォーエバーヤングのような〝国民的ヒーロー〟は、まだ出現していません。19年に伏竜S2着からチャーチルダウンズに雄飛したマスターフェンサーはダービー6着からベルモントS5着と掲示板に突入する頑張りを見せました。昨年の伏竜S馬テーオーパスワードのケンタッキーダービー5着が最高ですね。でもキャリア3戦目で挑んだにしては堂々たる走りで、近い将来には伏竜Sから本番で薔薇のレイを戴冠する馬が出てくるような気もします。さらに伏竜Sの知名度やブランド価値が急上昇したのも間違いがありません。今後、春の中山開催は、世界に羽ばたく伏竜Sで開幕週の幕が上がり、三冠ロード序章・皐月賞で大団円を迎える看板開催として価値を高めていく期待が膨らみます。有馬記念・中山大障害の金看板が輝く師走開催にも肩を並べるような成長を願いたいものです。

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