海外だより

ガリレオ劇場第三幕

先週は中山でG3フェアリーS、中京でG3シンザン記念と、いずれも新春を迎えるにふさわしい明け3歳馬による華やかなクラシック前哨戦が行われました。勝利を収めた中山のエリカエクスプレス、中京のリラエンブレムは、ともに新馬戦を勝ち上がったばかりの初々しくフレッシュな若駒とは思えない堂々たる勝ちっぷりで、寒波襲来を吹き飛ばして春の訪れを手繰り寄せてくれました。ちょっと驚いたのは両馬の母がガリレオの娘という共通点を持っていたことでした。ご存じのように英愛リーディングサイアー13回の大種牡馬サドラーズウェルズの最高傑作として今世紀最初の英ダービー馬と競走馬の頂点を極め、種牡馬としてもリーディングを12回獲得し、世界中で100頭を優に超えるG1馬を輩出し、合計200勝を軽くクリアして現在も積み上げ続けるなど、内容的には偉大な父に勝るとも劣らない輝かしい実績を残しています。

躍動するサラブレッドを通じて興奮と感動の物語を紡いで来た彼の生涯は、〝ガリレオ劇場〟ともいうべき世界中の競馬愛好家たちから聖地として崇められています。その第一幕は、もちろん競走馬として英愛ダービー、キングジョージ6世&クイーンエリザベスSとビッグレースを無敗で勝ち続けた現役時代の栄光と苦難のストーリーでしょう。次に開く第二幕は、前述した前人未到のG1勝利記録を始め、ニューアプローチに始まって、ルーラーオブザワールド、オーストラリア、アンソニーヴァンダイク、サーペンタインと5頭ものダービー馬を送り出した種牡馬として卓越した才能を示した時代がメインテーマです。

そして今、幕が開いた第三幕、ここでは息子たちが紡ぎ出し手となりサイアーライン(父系)を伸ばして行く事業、そして娘たちが織り上げるブルードメサイアー(母の父)の仕事にスポットライトが当たります。前者は最高の孝行息子フランケルが21年と23年に英愛リーディングサイアーを戴冠しており、フランスでは22年フランケル、23年クラックスマンが父子制覇を実現しました。ガリレオから数えると孫の代、サドラーズウェルズに遡れば曽孫までチャンピオン種牡馬の系譜が伸びたことになります。このサイアーラインが世界競馬の盟主に君臨して50年以上になりますが、時代を同じくして50年間でもっとも大きな成長と繁栄を手にして来た日本だけが無縁だったのは有名すぎる話です。御大サドラーズウェルズはG3を1勝しただけですし、ガリレオに至ってはここまで重傷未勝利に喘いで来ました。しかしサドラーズウェルズは母の父として底力を開花させ、名牝シーザリオを通じてエピファネイア・サートゥルナーリア兄弟などを輩出し、大きな信頼を勝ち得るに至っています。ガリレオはもっと勢いがあります。

ガリレオ自身が種牡馬としての絶頂期に、早々とヴァンキッシュランがG2青葉賞を勝っています。彼はディープインパクト産駒で、今から思うとガリレオの血が日本で市民権を獲得し、クラシック血統へと成長・発展して行く未来図への予告編だったような気がします。母父ガリレオと父ディープインパクトとのニックスは凄まじい爆発力を秘めているのは明らかです。オーギュストロダンが英愛ダービーを制圧し、スノーフォールは英愛オークスで歴史的な圧勝劇を演じています。英2000ギニーを制したサクソンウォリアーもこの配合です。ディープインパクトの不在が今更のように惜しまれますが、先述のリラエンブレムはディープ後継のトップサイアーであるキズナの血であり、G3中山牝馬Sのコンクシェルもキズナの娘でした。優秀なディープ後継が、この流れを受け継いでくれると期待して良いと思います。二つの大陸から生まれた別々の血が、縁を得て一つに繋がり新しい血脈となって、まだ見たことのない物語を紡いでいく、そんなガリレオ劇場第三幕に我々は立ち会おうとしている、楽しみな今年の幕が上がります。

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