海外だより

特別賞の〝価値〟を考える

JRA賞が発表されました。日本競馬の頂上を形づくるサラブレッドたちの輝かしく眩しい栄光で固められています。頂上の中でも、そのマン真ん中に陣取る年度代表馬には、現代競馬ではなかなか見られなくなったドンジリ一気の末脚を武器とするドウデュースが選出されました。人々を感動の渦に巻き込むというイマドキ貴重な価値を備えた素晴らしいサラブレッドです。関係者の皆様、おめでとうございます。ドウデュースには感謝を伝えたいと思います。

一方で特別賞に輝いたフォーエバーヤング、有馬記念という日本を代表するビッグレースを制しながら無冠に終わったレガレイラ、安田記念でライバルを蹴散らしてワールドクラスの実力に片鱗を煌めかせた香港調教馬ロマンティックウォーリアは、残念というか気の毒でした。世間でよく言われる〝生まれた時が悪かった〟という事象は競馬の世界では、しばしば起こります。ディープインパクトやイクイノックス、ジェンティルドンナやアーモンドアイと同じレースを走りたいと考える陣営はないでしょう。後から考えると、あの時負けた相手がディープだった、ノックスだった、という回顧談の世界なのですが。しかしロマンティックの場合、外国馬に厳しいというか、つれない日本競馬界は自らの体質改善を考え直さないと、そう思います。日本馬が目覚ましい活躍を見せた21年の米ブリーダーズカップでフィリー&メアターフを快勝したラヴズオンリーユーは、その年のアメリカ競馬の栄誉の象徴「エクリプス賞」芝牝馬チャンピオンに輝いています。馬に国境がないのは当たり前です。ワールドクラスの馬たちが日本のレースに興味を抱くようになっている現在、JRA賞の受賞馬はJRA所属馬ということではなく、JRA主催レースの出走馬ということで十分ではないでしょうか。

ウシュバテソーロの前例はありますが、ケンタッキーダービーでハナ+ハナの3着と、それまで誰も見せたことのない強烈なインパクトを放ったフォーエバーヤングは、記者投票の段階では、年度代表馬、最優秀3歳牡馬、最優秀ダートホースと彼が該当するカテゴリーすべてで次点に食い込むなど、その存在感の重さは並ぶ者がいないと感じられるほどでした。それでも賞というものは、予(あらかじ)め枠が決められており、そこに嵌(はま)らないと如何ともし難い不器用さ不自由さがついて回ります。そんな堅物ぶりを補う意味で「特別賞」が発明され、多くの人々の気持ちを柔軟に救い上げてきました。そもそもJRA賞における「特別賞」は、競馬の社会的地位がまだ低かった1973年に、国民的人気を巻き起こした〝元祖アイドルホース〟ハイセイコーに、当時は「大衆賞」という名前で贈られたのが最初でした。その後も78年のテンポイントや89年のオグリキャップに「特別賞」のタスキは繋がれ、今回のように海外遠征での歴史的快挙に対する顕彰としては、01年のステイゴールが通算50戦目で迎えたラストラン・香港ヴァーズで遂にG1の金的を射止めた偉業に対して贈られたのが最初です。彼は既にドバイシーマクラシックを勝っていたのですが、当時はG2格付けでG1昇格を果たしのは翌年という間の悪さへの同情も少しあったかも。16年のモーリスは前年に無敗の6連勝で安田記念・マイルチャンピオンシップ・香港マイルなど内外マイルG1を総なめにした功績が認められ晴れて年度代表馬に輝いていますが、この年は天皇賞秋・香港カップとカテゴリーの異なるG1に挑み超克した恐るべき異能ぶりに対して、そして昨年は世界の最高峰のひとつドバイワールドカップの頂上に、日本調教馬として初めて立ったウシュバテソーロに対して贈られています。ステイゴールドを始祖として、オルフェーブル、ウシュバテソーロと繋がれたサイアーラインの海外遠征における強さと輝きが放つ〝特別さ〟には感慨深いものがあります。前述のアイドルホースたちの存在感も、並外れた〝特別さ〟のオーラが覆っていましたが、「特別賞」というネーミングには、JRA賞という既存価値の序列とは別のところで輝きを放っている〝特別な価値〟というところに、主催者の心を込めた思いがあるような気がします。ただ、その心を伝えるのにも「特別賞」というネーミングは一考も二考も必要かもしれません。海外では賞やレースに、ゆかりの人名や馬名を当てるのが普通です。いぶし銀のように奥深い輝きを秘めたネーミングが、特別賞の存在と誇りを際立たせてくれるはずです。

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