海外だより

競馬とドレスコード

競馬発祥の地イギリスといえば、山高帽にモーニング着用の紳士や華麗なフォーマルドレスで着飾った淑女で賑わう風景が、ロイヤルアスコットなどでお馴染みの競馬場に欠かせない風物詩として親しまれています。ところが先週、英国ジョッキークラブが傘下の15競馬場で伝統となっているフォーマルなドレスコードを直ちに廃止すると発表しています。「もっと気軽に競馬を楽しみたい」という競馬ファンの熱心な声に応えたものだそうです。ジョッキークラブCEOのトゥルーズデール氏は「競馬はさまざまなバックグラウンドを持つ人々が常に楽しんできたスポーツであり、身近であらゆる層に開かれたものであることは、とても重要です。どのような服装をすべきか、もしくはすべきではないかという縛りをなくすことで、競馬が皆んなのスポーツであることをアピールできたらと望んでいます」とドレスコード廃止に踏み切った英断の背景を述べています。

今後については「ジョッキークラブには豊かな伝統と歴史がありますが、同時に先進的な組織でもあります。多様性と包容性にしっかりと重点を置き、いつも時代に寄り添います。ドレスアップしてレース観戦したいのであれば、もちろんそれは否定されないし、もっとも快適で(自分に)似合っていると思える服装」を呼びかけています。ドレスアップするのも、カジュアルに装うのも一人一人の自由にお任せします、というのが結論です。お天気が崩れやすいイギリスの気候風土を思えば、ドレスコードの呪縛から開放されるのは有難くも感じられます。ただし伝統のロイヤルアスコット開催やダービー当日のエプソム競馬場クイーンエリザベス2世スタンドに限ってはドレスコードが維持されるそうですが、それも“文化”と考えれば十分に説得力があります。

日本の競馬場にはドレスコードの慣例はありませんが、馬主さんたちの間にはスーツにネクタイ着用で威儀を正し、競馬というスポーツに敬意を顕わす伝統が受け継がれています。競馬がギャンブルの一つとして蔑視される風潮が根強く存在した日本社会にあっては、それはそれで意義深いものだったと思いますし、そうしたホースマンの誇りが競馬の発展を支えて来た面もあったと思います。でもカジュアルないでたちで身も心も伸び伸びと解放して、スターホースたちと身近に接することができるようになるのは大きな楽しみです。

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