海外だより

蘇えるヒーロー

お伝えしてきたように、先週のシャティン競馬場では香港ファンが熱狂で迎えた“世紀の大一番”G1スチュワーズCが行われました。7頭立てと小じんまりしたメンバー構成でしたが、“3強”以外にもG1馬が顔を揃え、さらにライアン・ムーアやヒュー・ボウマンといった世界的名ジョッキーをわざわざ招聘するなど、香港競馬界を上げての熱の入れようです。しかしゲートが開くと、カリフォルニアスパングルがハナを主張してロマンティックウォリアーが2番手をキープすると、いつもは後方に構えるゴールデンシックスティも早々と3番手につけて“3強”が1馬身間隔で並び、レースを主導します。日本のオールドファンなら、どこか懐かしい思いで“既視感”とともに中継映像を見入ったことでしょう。50年近くも前、あの稀代の名勝負を走馬灯にように思い浮かべたかもしれません。1977年の有馬記念で“TTG”と呼ばれたトウショウボーイ、テンポイント、グリーングラスの“3強”が、果敢に先行してマッチレースを演じ、1着テンポイント、2着トウショウボーイ、3着グリーングラスと順にゴールラインを越え、4着に続いた菊花賞馬プレストウコウはさらに6馬身突き放されていました。互いに“最強”を自認するサラブレッドたちの譲れぬ誇りをかけた戦いでした。長い間、競馬を見続けていると、思いがけず至福の瞬間を味わえたりするものです。そんな映像が海の向こうの香港から届けられるとは考えても見ませんでしたが。

少し前までは、ゴールデンシックスティが疾風怒濤の16連勝を記録するなど絶対王者として“香港の英雄”に君臨していました。しかし非凡なスピードを武器にカルフォルニアスパングルが鳳凰のように羽ばたいて大空を目指し、マイルから中長距離まで幅広い適性を備えるロマンティックウォリアーが昇龍のような勢いで存在感を見せつけると、さすがの“英雄”も少し影が薄くなっていました。しかしスチュワーズCの歴史的名勝負は、そんな見取り図を一挙に書き換えました。“香港の英雄”がさらに威風を増して、蘇えりました。まだまだ王座は譲れません。成長の期待できる若馬とともに香港競馬をさらに盛り上げてくれることでしょう。

“蘇えった英雄”ゴールデンシックスティは、バーイードが引退した現在では世界最高のマイラーを自負しています。今後はドバイターフから日本の安田記念でそれを証明します。ロンジン社提供の最新の世界ランキングによれば、ゴールデンシックスティ124ポンド、ロマンティックウォリアー124ポンド、カリフォルニアスパングル123ポンドと“3強”のレーティングは拮抗しています。ちなみに“日本3強”はイクイノックス126ポンド、タイトルホルダー124ポンド、ヴェラアズール123ポンドの順にピックアップされました。イクイノックスの評価がアタマひとつ抜けていますが、グループとして見れば、香港と日本の実力は紙一重と考えた方が良いかもしれません。ドバイターフ、安田記念ともに白熱の戦いが繰り広げられるでしょう。今シーズンも競馬はますます面白くなりそうです。

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